next up previous contents
Next: 6 ちょっとまとめ Up: 3 連立一次方程式 Previous: 4 行列の簡約化   Contents

5 連立一次方程式の解法

例 3.26 (任意定数を含む解の具体例)   方程式

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & -2 & 0 & 3 & 0 \\ 1 & -2 & 1 & 2 & 1 \\ 2 & -4...
...x_{3} \\ x_{4} \\ x_{5} \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}2 \\ 2 \\ 5 \end{bmatrix}$ (397)

を考える. 拡大係数行列の簡約化を行なうと,

$\displaystyle \left[\begin{array}{ccccc\vert c} 1 & -2 & 0 & 3 & 0 & 2 \\ 1 & -...
... & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 1 & -1 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 1 \end{array}\right]$ (398)

を得る. ここで

  $\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=3\,,\quad \mathrm{rank}\,([A\,\vert\,\vec{b}])=3$ (399)

が成立することに注意する. 簡約化された拡大係数行列より方程式を復元すると,

$\displaystyle \left\{\begin{array}{cccccl} x_{1} & -2x_{2} & & +3x_{4} & & = 2 ...
...m] & & x_{3} & -x_{4} & & = -1 \\ [.5em] & & & & x_{5} & = 1 \end{array}\right.$ (400)

である. 主成分の列と同じ位置にある変数を左辺に残し, 他の項を右辺に移項すると

$\displaystyle \left\{\begin{array}{cl} x_{1} & = 2 + 2x_{2} - 3x_{4} \\ [.5em] x_{3} & = -1 +x_{4} \\ [.5em] x_{5} & = 1 \end{array}\right.$ (401)

となる. 右辺にある変数 $ x_{2}$, $ x_{4}$ は独立に任意の値をとる. よって $ x_{2}=c_{1}$, $ x_{4}=c_{2}$ とおけば,解として

$\displaystyle \begin{bmatrix}x_{1} \\ x_{2} \\ x_{3} \\ x_{4} \\ x_{5} \end{bmatrix}$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}2+2c_{1}-3c_{2} \\ c_{1} \\ -1 + c_{2} \\ c_{2} \\ 1 \end{bmatrix} \qquad (c_{1},c_{2}\,$:任意定数$\displaystyle )$ (402)
  $\displaystyle = \begin{bmatrix}2 \\ 0 \\ -1 \\ 0 \\ 1 \end{bmatrix}+ c_{1} \beg...
...0 \\ 0 \end{bmatrix}+ c_{2} \begin{bmatrix}-3 \\ 0 \\ 1 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix}$ (403)

を得る. 解は 5 次元平面 $ \mathbb{R}^{5}$ 内の ある 2 次元平面となる.

例 3.27 (解が存在しない具体例)   方程式

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 0 & -1 & 0 & -2 \\ 0 & 1 & 1 & 0 & 1 \\ -1 & 0...
...\\ x_{4} \\ x_{5} \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}1 \\ -2 \\ 3 \\ 1 \end{bmatrix}$ (404)

を考える. 拡大係数行列の簡約化を行なうと,

$\displaystyle [A\vert\vec{b}]$ $\displaystyle = \left[ \begin{array}{ccccc\vert c} 1 & 0 & -1 & 0 & -2 & 1 \\ 0...
...0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 & -1 & 0 \\ \hline 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 \end{array} \right]$ (405)

を得る. 方程式に書き戻すと

$\displaystyle \left\{ \begin{array}{cccccc} x_{1} & & -x_{3} & & -2x_{5} & = 0 ...
...\ & & & x_{4} & -x_{5} & = 0 \\ 0 & +0 & +0 & +0 & +0 & = 1 \end{array} \right.$ (406)

となる. 最後の行は $ 0=1$ となるから, どのような $ \vec{x}$ をとっても成立することはない. よってこの連立方程式の解は存在しない. ここで

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=3 < \mathrm{rank}\,([A\,\vert\,\vec{b}])=4$ (407)

が成り立つことに注意する. このとき解をもたない.

連立一次方程式

$\displaystyle A\,\vec{x}=\vec{b}\,,\qquad A=[a_{ij}]_{m\times n}\,,\quad \vec{b}=[b_{i}]_{m\times1}\,,\quad \vec{x}=[x_{j}]_{n\times1}$ (408)

を考える. 以後この方程式に対して議論する.

方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{b}$ の解を求めるには まず,拡大係数行列 $ [A\vert\vec{b}]$ の簡約化を行なう. このとき得られた行列が

  $\displaystyle [A\vert\vec{b}] \overset{\text{簡約化}}{\longrightarrow} \left[\b...
... & & &&& \cdots & 0 & 0 \\ 0 & \cdots & & &&& \cdots & 0 & 0 \end{array}\right]$ (409)

と得られたとしよう. このとき零ベクトルではない一番下の行に着目すると

$\displaystyle 0\times x_{1}+0\times x_{2}+0\times x_{3}+\cdots+ 0\times x_{n} = 1$ (410)

となる.$ 0=1$ となり矛盾する. よってこのとき, 方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{b}$ は解をもたない. 各係数行列のランクに着目すると,

  $\displaystyle A \overset{\text{簡約化}}{\longrightarrow} \left[\begin{array}{cc...
...& \cdots & & &&& \cdots & 0 \\ 0 & \cdots & & &&& \cdots & 0 \end{array}\right]$ (411)

であるから,

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)<\mathrm{rank}\,([A\,\vert\,\vec{b}])$ (412)

が成り立つ. この条件のもとでは解をもたない. 次に簡約化の結果として

$ [A\vert\vec{b}]$ の簡約化行列$\displaystyle = \left[\begin{array}{cccccccc\vert c} \!1\! & ** & \!0\! & ** & ...
... & & &&& \cdots & 0 & 0 \\ 0 & \cdots & & &&& \cdots & 0 & 0 \end{array}\right]$ (413)

を得たとする. こときは解をもつ. 係数行列のランクは $ \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])$ が成り立つ. 以上をまとめると次の定理が成り立つ.

定理 3.28 (連立一次方程式の可解条件)   方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{b}$ が解をもつための 必要十分条件は

$\displaystyle \mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])=\mathrm{rank}\,(A)$ (414)

である.

解に任意定数を含まないのは, 簡約行列のすべての列に主成分が現れるときである. つまり係数行列のランクと変数の個数が一致するときである. これをまとめると以下の定理を得る.

定理 3.29 (一意な解をもつ条件)   方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{b}$ が唯一つの解をもつための 必用十分条件は

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])=n$ (415)

である.

定理 3.30 (任意定数を含む解をもつ条件)   方程式

$\displaystyle A\vec{x}=\vec{b}\,,\quad A=[a_{ij}]_{m\times n}\,,\quad \vec{x}=[x_{j}]_{n\times 1}\,,\quad \vec{b}=[b_{i}]_{m\times 1}$ (416)

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,[A\vert\vec{b}]<n$ (417)

のとき任意定数を含む解をもつ. このとき任意定数の個数は

$\displaystyle n-\mathrm{rank}\,(A)$ (418)

である.

定義 3.31 (同次形方程式)   $ A\,\vec{x}=\vec{b}$ において $ \vec{b}=0$ が成り立つとき, 方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{0}$同次形(homogeneous)と呼ぶ. $ \vec{b}\neq\vec{0}$ とき非同次形(inhomogeneous)と呼ぶ.

定理 3.32 (同次形の解の存在)   同次方程式は $ \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,[A\vert\vec{0}]$ が常になり立つので, 常に解 $ \vec{x}=\vec{0}$ をもつ.

定義 3.33 (同次形の自明解)   同次方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{0}$ の解 $ \vec{x}=\vec{0}$自明な解と呼ぶ.

定理 3.34 (同次方程式の解)   同次方程式 $ A\,\vec{x}=\vec{0}$ について次の条件が成り立つ:
(1)
自明な解 $ \vec{x}=\vec{0}$ のみをもつための必用十分条件は

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=n$ (419)

である.
(2)
$ m<n$ のとき,方程式は自明でない解(任意定数を含む解)をもつ.


(証明)(1)前述の定理より唯一つの解をもつための必要十分条件は

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{0}])=n$ (420)

である. 拡大係数行列の一番右の列の $ \vec{0}$ はランクに影響を与えない. よって定理の条件を得る.

(2) $ \mathrm{rank}\,(A)\leq m$, $ \mathrm{rank}\,(A)\leq n$ と条件 $ m<n$ より

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(A)\leq m < n$ (421)

を得る.(1)の定理より自明でない解をもつ. 証明終了.

例 3.35 (同次形方程式の解)   方程式

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & -2 & 0 & 3 \\ 1 & -1 & 1 & 2 \end{bmatrix} \be...
...} \\ x_{2} \\ x_{3} \\ x_{4} \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}0 \\ 0 \end{bmatrix}$ (422)

を考える. 係数行列を簡約化して

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & -2 & 0 & 3 \\ 1 & -1 & 1 & 2 \end{bmatrix}\to \begin{bmatrix}1 & 0 & 2 & 1 \\ 0 & 1 & 1 & -1 \end{bmatrix}$ (423)

を得る.よって解は

$\displaystyle \vec{x}= \begin{bmatrix}-2c_{1}-c_{2} \\ -c_{1}+c_{2} \\ c_{1} \\...
... \\ 1 \\ 0 \\ 1 \end{bmatrix}\qquad (\forall c_{1}, \forall c_{2}\in\mathbb{R})$ (424)

となる. 解は原点を通る2次元平面である.


next up previous contents
Next: 6 ちょっとまとめ Up: 3 連立一次方程式 Previous: 4 行列の簡約化   Contents

Kondo Koichi
Created at 2004/11/26