2.15 行列の演算に関する注意

注意 2.55 (積の可換性)   $ AB=BA$ は常に成立するとは限らない.

定義 2.56 (積の可換性)   $ AB=BA$ が成立するとき, $ A$$ B$可換(commutative)であるという. 可換でない場合は非可換(non-commutative)であるという.

2.57 (積の可換性)   可換となりうる行列は正方行列のみである. これを示せ.

2.58 (非可換な場合の具体例)   行列 $ A$, $ B$

$\displaystyle A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 1 \\ 0 & 1 \end{bmatrix}\,,\qquad B= \begin{bmatrix}0 & -1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix}$ (319)

で与えられたとする.このとき

$\displaystyle AB$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 1 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}0 & ...
...trix}1 & 1 \\ 0 & 1 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}0 & -1 \\ 1 & 1 \end{bmatrix}$ (320)

となる. よって $ AB\neq BA$ となり, $ A$$ B$ とは非可換である.

2.59 (可換な場合の具体例)   行列 $ A$, $ B$

$\displaystyle A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}\,,\qquad B= \begin{bmatrix}3 & 0 \\ 0 & 4 \end{bmatrix}$ (321)

で与えられたとする.このとき

$\displaystyle AB$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}3 & ...
...atrix}1 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}3 & 0 \\ 0 & 8 \end{bmatrix}$ (322)

となる. よって $ AB=BA$ となり, $ A$$ B$ とは可換である.

2.60 (対角行列の可換性)   対角行列どうしの積は可換である.これを示せ.


(証明) 対角行列は $ A=[a_{ij}\delta_{ij}]$, $ B=[b_{ij}\delta_{ij}]$ と表わされる. これを用いて示す.

注意 2.61 (行列の方程式)   $ AB=O$ のとき $ A=O$ または $ B=O$ が成立するとは限らない. 数の場合は $ ab=0$ のとき $ a=0$ または $ b=0$ である.

2.62 (行列の方程式の具体例)   行列 $ A$, $ B$

$\displaystyle A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & -1 \\ 1 & -1 \end{bmatrix}\,,\qquad B= \begin{bmatrix}1 & 1 \\ 1 & 1 \end{bmatrix}$ (323)

とする.このとき

$\displaystyle AB$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & -1 \\ 1 & -1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}1 & 1 \\ 1 & 1 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}0 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}=O\,$ (324)

となる.$ AB=O$ ではあるが $ A\neq O$, $ B\neq O$ である.

定義 2.63 (行列の巾乗)   $ A$ が正方行列のとき,$ A$$ m$ 回掛け合わせた行列を

$\displaystyle A^m=\overbrace{AA\cdots A}^{m}$ (325)

と表記し,これを $ A$巾乗と呼ぶ.

定義 2.64 (巾零行列)   $ A^m=O$ ( $ 2\leq m\in\mathbb{N}$) を満たす行列 $ A$巾零行列と呼ぶ.

2.65 (巾零行列の具体例)  

$\displaystyle (1)\qquad A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}\,,\quad A^2=AA= \be...
...}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}0 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}=O\,.$ (326)
$\displaystyle (2)\qquad A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix...
...A^3=AA^2= \begin{bmatrix}0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}=O\,.$ (327)

2.66   教科書(p.10)問題 1.2.


平成20年2月2日