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逆行列

定義 2.9 (逆行列)   行列 $ A$ に対して

$\displaystyle AB=BA=E$ (226)

を満たす行列 $ B$ が存在するとき, 行列 $ B$ を行列 $ A$逆行列(inverse matrix)と呼ぶ. $ A$ の逆行列は $ A^{-1}$ と表記する.

問 2.8   逆行列をもつのは正方行列のみである. これを示せ.


(証明) $ AB=BA$ を満たす行列は可換な行列である. 可換な行列は正方行列のみである.

定理 2.10 (逆行列の一意性)   行列 $ A$ が逆行列をもつとき,逆行列は一意に定まる.


(証明) $ B$$ C$$ A$ の逆行列であると仮定する. このとき $ AB=BA=E$, $ AC=CA=E$ が成り立つ. これを用いて

$\displaystyle B=BE=B(AC)=(BA)C=EC=C$ (227)

となる.よって $ B=C$ であり $ B$$ C$ とは一致する.

定義 2.10 (行列の正則性)   正方行列 $ A$ が逆行列をもつとき, $ A$正則(regular)であるという. 正則な行列を正則行列(regular matrix)と呼ぶ.

定理 2.11 (逆行列をもつ十分条件)   正方行列 $ A$, $ B$$ AB=E$ または $ BA=E$ の どちらか一方だけを満たすときでも $ B$$ A$ の逆行列となる.


(証明) 証明はずっとあとに行なう.

定理 2.12 (逆行列の計算法)   行列 $ [A\vert E]$ を簡約化して $ [E\vert B]$ の形に変形できたとする. このとき $ B$$ A$ の逆行列 $ A^{-1}$ となる.


(証明) 行列 $ A$ に基本変形を繰り返し行ない単位行列 $ E$ に変換されたとする. このとき

$\displaystyle P^{(*)}P^{(*)}\cdots P^{(*)}A=E$ (228)

と書ける. $ A$ の左にかかっている行列をまとめて $ B$ と書くと,

$\displaystyle B=P^{(*)}P^{(*)}\cdots P^{(*)}$ (229)

となる. この $ B$ を用いれば $ BA=E$ が成り立つ. 前述の定理より $ BA=E$ のとき $ B$$ A$ の逆行列 $ B=A^{-1}$ となる. よって行列 $ B$ を求めればよい. $ B$

$\displaystyle B=P^{(*)}P^{(*)}\cdots P^{(*)}E$ (230)

と書ける. これはすなわち $ A$ に行なった基本変形と同じ操作を $ E$ に 対して行なうことを意味する. これらの操作を同時に行なうには, 行列 $ [A\vert E]$ を考えて $ [E\vert B]$ の形に簡約化すればよい. この一連の操作により $ BA=E$ を得る.

例 2.17 (逆行列の計算例)  

$\displaystyle A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 2 & 1 \\ 2 & 3 & 1 \\ 1 & 2 & 2 \end{bmatrix}$ (231)

$\displaystyle A^{-1}$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}-4 & 2 & 1 \\ 3 & -1 & -1 \\ -1 & 0 & 1 \end{bmatrix}$ (232)

定理 2.13 (行列の正則性と緒性質)   正方行列 $ A$ に対して次の(1)-(5) は同値である:
(1)
$ \mathrm{rank}\,(A)=n$.
(2)
$ A$ の簡約化は $ E$ である.
(3)
$ A\vec{x}=\vec{b}$ は任意の $ \vec{b}$ に対して唯一つの解をもつ.
(4)
$ A\vec{x}=\vec{0}$ は自明な解 $ \vec{x}=\vec{0}$ のみをもつ.
(5)
$ A$ は正則である.

定理 2.14   正方行列 $ A$ が正則なとき方程式 $ A\vec{x}=\vec{b}$ は 解 $ \vec{x}=A^{-1}\vec{b}$ をもつ.

例 2.18 (逆行列をもたない具体例)  

$\displaystyle A$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 2 & 3 \\ 2 & 3 & 4 \\ 3 & 4 & 5 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix}1 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$ (233)

$ \mathrm{rank}\,(A)=2<3$ となるので $ A$ は正則ではない. よって $ A$ は逆行列をもたない.

例 2.19 (逆行列を用いた解法の具体例)  

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 2 & 1 \\ 2 & 3 & 1 \\ 1 & 2 & 2 \end{bmatrix} ...
...x_{1} \\ x_{2} \\ x_{3} \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}1 \\ 2 \\ 3 \end{bmatrix}$ (234)

$ A\vec{x}=\vec{b}$ とすると $ \vec{x}=A^{-1}\vec{b}$ より 解が求まる.

$\displaystyle \begin{bmatrix}x_{1} \\ x_{2} \\ x_{3} \end{bmatrix}= \begin{bmat...
...in{bmatrix}1 \\ 2 \\ 3 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}3 \\ -2 \\ 2 \end{bmatrix}$ (235)

定理 2.15 (逆行列の性質)   正方行列 $ A$, $ B$ が正則のとき次の関係式が成り立つ.
(1)
$ (A^{-1})^{-1}=A$.
(2)
$ (\,{}^{t}A)^{-1}=\,{}^{t}(A^{-1})$.
(3)
$ (AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}$.

問 2.9   これを示せ.


(証明) (3) を示す.


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Kondo Koichi
Created at 2002/07/22