3.16 逆行列
定義 3.59 (逆行列) 行列に対して
(550)
を満たす行列が存在するとき, 行列
を行列
の逆行列(inverse matrix)と呼ぶ.
の逆行列は
と表記する.
問 3.60 (逆行列の性質) 逆行列をもつのは正方行列のみである. これを示せ.
(証明)を満たす行列は可換な行列である. 可換な行列は正方行列のみである.
定理 3.61 (逆行列の一意性) 行列が逆行列をもつとき,逆行列は一意に定まる.
(証明)と
が
の逆行列であると仮定する. このとき
,
が成り立つ. これを用いて
(551)
となる.よってであり
と
とは一致する.
定義 3.62 (行列の正則性) 正方行列が逆行列をもつとき,
は正則(regular)であるという. 正則な行列を正則行列(regular matrix)と呼ぶ.
定理 3.63 (逆行列をもつ十分条件) 正方行列,
が
または
の どちらか一方だけを満たすときでも
は
の逆行列となる.
(証明) 証明はずっとあとに行なう.
定理 3.64 (逆行列の計算法) 行列を簡約化して
の形に変形できたとする. このとき
は
の逆行列
となる.
(証明) 行列
に基本変形
を繰り返し行ない 単位行列
に変換されたとする. このとき
(552)
と書ける.の左にかかっている行列をまとめて
と書くと,
(553)
となる.を用いれば
が成り立つ. 前述の定理より
のとき
は
の逆行列
となる. よって行列
を求めればよい.
は
(554)
と書ける. これはすなわちに行なった基本変形と同じ操作を
に 対して同じ順で行なうことを意味する. これらの操作を同時に行なうには, 行列
に対して簡約化を行い
の形にすればよい. この一連の操作により
を得る.
例 3.65 (逆行列の計算例) 行列
(555)
を考える.この行列の逆行列を求める. 行列に基本変形を次のように繰り返し行なう:
(一行目を
倍して三行目に加える.)
(556) (一行目を
倍して二行目に加える.)
(557) (二行目を
倍して一行目に加える.)
(558) (三行目を一行目に加える.)
(559) (三行目を二行目に加える.)
(560) (二行目を
倍する.)
(561) (562)
よって,の逆行列
(563)
を得る.
定理 3.66 (行列の正則性と緒性質) 正方行列に対して次の(1)-(5) は同値である:
- (1)
.
- (2)
の簡約化は
である.
- (3)
- 任意の
に対して
は一意な解をもつ.
- (4)
は自明な解
のみをもつ.
- (5)
は正則である.
(証明)
,
を示す.
を示す.
は
型でフルランクであるから, 簡約化は明らかに
となる.
を示す. 簡約化により
となるので, 方程式は
となる. よって解として一意な解
をもつ.
を示す.
のとき
であるから, 解として
のみをもつ.
を示す. 定理
より, 同次形方程式が自明な解のみをもつ必用十分条件は
である.
を示す.
のときの解を それぞれ
とする. このとき
(564) (565) (566)
となる.は
の逆行列である. よって
は正則である.
を示す.
(567)
定理 3.67 (逆行列による解法) 正方行列が正則なとき方程式
は 解
をもつ.
例 3.68 (逆行列をもたない具体例) 行列
(568)
の逆行列を考える. 例題と同じように計算を行なう:
(一行目を
倍して三行目に加える.)
(569) (一行目を
倍して二行目に加える.)
(570) (二行目を
倍する.)
(571) (二行目を
倍して一行目に加える.)
(572) (二行目を
倍して三行目に加える.)
(573) (574)
これより行列の簡約化は
(575)
となる.よってとなる. 定理
の
より
は正則ではない. よって
は逆行列をもたない.
例 3.69 (逆行列を用いた解法の具体例) 方程式
(576)
を考える.とすると
より 解が求まる. よって
(577)
を得る.
定理 3.70 (逆行列の性質) 正方行列,
が正則のとき次の関係式が成り立つ:
- (1)
.
- (2)
.
- (3)
.
問 3.71 これを示せ.
(証明) (3) を示す.
(578) (579) ![]()
の逆行列は
.
(580) (581)
Kondo Koichi
![]()
KONDO Koichi
平成19年1月25日