3.12 ちょっとまとめ

3.45 (任意定数を含む解って何?)   方程式 $ x_{1}+x_{2}=0$ の解を考えよう. この方程式の解はどのように表現したらよいだろうか. まずは具体的にいくつか解を書き下してみよう. 解は方程式に代入して成り立てばよいから,

$\displaystyle x_{1}$ $\displaystyle =1\,,\quad x_{2}=-1\,,$ (475)
$\displaystyle x_{1}$ $\displaystyle =2\,,\quad x_{2}=-2\,,$ (476)
$\displaystyle x_{1}$ $\displaystyle =3\,,\quad x_{2}=-3\,,$ (477)
$\displaystyle x_{1}$ $\displaystyle =4\,,\quad x_{2}=-4\,,$ (478)
  $\displaystyle \quad\,\vdots$ (479)

は解となるのがすぐ分かる. この解から予想できることとして $ x_{1}$ は任意の値で良さそうである. これを $ c$ としよう.$ x_{1}=c$ とおけば $ x_{2}=-c$ である. よって解として

$\displaystyle \begin{bmatrix}x_{1} \\ x_{2} \end{bmatrix}= \begin{bmatrix}c \\ -c \end{bmatrix}\, \qquad (\forall c\in\mathbb{R})$ (480)

を得る.確にこれが解となっているかは, 方程式 $ x_{1}+x_{2}=0$ に代入すればよい. この解は任意定数を含む解である. 変数の個数は $ 2$ 個であり, 方程式の本数が $ 1$ 本であるので, 任意定数の個数は $ 2-1=1$ 個となる.

次に方程式

$\displaystyle \left\{\begin{array}{l} x_{1}+x_{2}=0 \\ [.5ex] x_{3}+x_{4}=0 \end{array}\right.$ (481)

を考えよう.第一式は先ほどの方程式と同じである. であるから第一式を満たす解として $ (x_{1},x_{2})=(c,-c)$ を得る. 第二式も第一式と同じ形をしており, 変数名が違うだけである. よって解は $ (x_{3},x_{4})=(c,-c)$ である. しかし第一式と第二式とは独立しているので, 任意定数も独立してとり得る. これを $ x_{1}=c_{1}$, $ x_{3}=c_{2}$ としよう. よって解として

$\displaystyle \begin{bmatrix}x_{1} \\ x_{2} \\ x_{3} \\ x_{4} \end{bmatrix}= \b...
...2} \\ -c_{2} \end{bmatrix}\, \qquad (\forall c_{1}, \forall c_{2}\in\mathbb{R})$ (482)

を得る. 変数が $ 4$ 個,方程式が $ 2$ 本, 任意定数が $ 4-2=2$ 個である.

以上より, 任意定数の個数は変数の個数から方程式の(本質的な)本数を引い たものである.

3.46 (簡約化って何?)   方程式

$\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +x_{2} & +x_{3} & +x_{4} & =0 \\ [.5ex] & & x_{3} & +x_{4} & =0 \end{array}\right.$ (483)

を考えよう.第一式から第二式を引くと,

$\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +x_{2} & & & =0 \\ [.5ex] & & x_{3} & +x_{4} & =0 \end{array}\right.$ (484)

を得る. 第一式から変数が $ 2$ 個減っている. このとき係数行列は

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \qquad\to\qquad \begin{bmatrix}1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}$ (485)

のように変形される. 右の行列は簡約な行列となっている.

次に方程式

$\displaystyle \left\{\begin{array}{ccc} 3x_{1} & +\,4x_{2} & =2 \\ [.5ex] x_{1} & +\,2x_{2} & =3 \end{array}\right.$ (486)

を考えよう. 方程式と係数行列の変化をみよう:

  $\displaystyle \left\{\begin{array}{ccc} 3x_{1} & +\,4x_{2} & =2 \\ [.5ex] x_{1}...
...\qquad \left[\begin{array}{cc\vert c} 3 & 4 & 2 \\ 1 & 2 & 3 \end{array}\right]$ (487)
  $\displaystyle \to \left\{\begin{array}{ccc} 0 & -\,2x_{2} & =-7 \\ [.5ex] x_{1}...
... \to \left[\begin{array}{cc\vert c} 0 & -2 & -7 \\ 1 & 2 & 3 \end{array}\right]$ (488)
  $\displaystyle \to \left\{\begin{array}{ccc} x_{1} & +\,2x_{2} & =3 \\ [.5ex] & ...
... \to \left[\begin{array}{cc\vert c} 1 & 2 & 3 \\ 0 & -2 & -7 \end{array}\right]$ (489)
  $\displaystyle \to \left\{\begin{array}{ccc} x_{1} & 0 & =-4 \\ [.5ex] & -2x_{2}...
...\to \left[\begin{array}{cc\vert c} 1 & 0 & -4 \\ 0 & -2 & -7 \end{array}\right]$ (490)
  $\displaystyle \to \left\{\begin{array}{ccc} x_{1} & & =-4 \\ [.5ex] & x_{2} & =...
...\to \left[\begin{array}{cc\vert c} 1 & 0 & -4 \\ 0 & 1 & 7/2 \end{array}\right]$ (491)

このように基本変形により変数が減って行く. この手順によりうまく変数を減らすことができる. ある行列が与えられたとき, その行列に対して簡約な行列は一意に定まる. つまり,与えられた方程式に対して常に うまい変数の減らし方が存在することを意味する.

3.47 (ランクっ何?)   方程式

$\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +\,x_{2} & +\,x_{3} & +\,x_{4...
... & =0 \\ [.5ex] 2x_{1} &+\,2x_{2} & +\,3x_{3}& +\,3x_{4}& =0 \end{array}\right.$ (492)

を考えよう. 変数が $ 4$ 個,方程式が $ 3$ 本であるから 任意定数は $ 4-3=1$ 個であろう. しかし本当にそうであろうか. まずは方程式に基本変形をほどこしてみよう:

  $\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +x_{2} & & & =0 \\ [.5ex] & &...
...+x_{4} & =0 \\ [.5ex] 2x_{1} &+2x_{2} & +3x_{3}& +3x_{4}& =0 \end{array}\right.$ (493)
  $\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +x_{2} & & & =0 \\ [.5ex] & & x_{3} & +x_{4} & =0 \\ [.5ex] 0 & +0 & +0 & +0 & =0 \end{array}\right.$ (494)
  $\displaystyle \left\{\begin{array}{ccccc} x_{1} & +x_{2} & & & =0 \\ [.5ex] & & x_{3} & +x_{4} & =0 \end{array}\right.$ (495)

このように方程式は本質的に $ 2$ 本である. よって変数が $ 2$ 個,方程式が $ 2$ 本, 任意定数が $ 4-2=2$ 個となる. これを係数行列でみてみよう:

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 2 & 2 & 3 & 3 \e...
...to \begin{bmatrix}1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$ (496)

最後の簡約化された行列に着目する. 行列のランクは $ 2$ である. つまり,係数行列のランクは 方程式の本質的な本数を示している.

まとめ 3.48 (連立 1 次方程式についてのまとめ)   連立 1 次方程式

$\displaystyle A\,\vec{x}=\vec{b}\,,\qquad A=[a_{ij}]_{m\times n}\,,\quad \vec{b}=[b_{i}]_{m\times1}\,,\quad \vec{x}=[x_{j}]_{n\times1}$ (497)

について次の関係が成り立つ:


(I) 非同次形( $ \vec{b}\neq\vec{0}$)のとき

$ \mathrm{rank}\,(A)\neq\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])$ $ \Leftrightarrow$ 解なし
$ \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])=n$ $ \Leftrightarrow$ 一意な解をもつ
$ \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{b}])<n$ $ \Leftrightarrow$ 任意定数を含む解をもつ
任意定数の個数$ =n-\mathrm{rank}\,(A)$
(II) 同次形( $ \vec{b}=\vec{0}$)のとき
常に $ \mathrm{rank}\,(A)=\mathrm{rank}\,([A\vert\vec{0}])$ が成り立つので 解を常にもつ
$ \mathrm{rank}\,(A)=n$ $ \Leftrightarrow$ 自明な解( $ \vec{x}=\vec{0}$)をもつ
$ m<n$ $ \Rightarrow$ $ \mathrm{rank}\,(A)<n$ $ \Leftrightarrow$ 任意定数を含む解をもつ
任意定数の個数$ =n-\mathrm{rank}\,(A)$


平成20年2月2日