4.23 点の平面への射影変換

4.104 (点の平面への射影)   $ \mathbb{R}^3$ において, 任意の点 $ (x_1,x_2,x_3)$ から平面

$\displaystyle ($$\displaystyle )\qquad x_1+x_2+x_3=0$    

への射影変換 $ f$ を求める. 方程式(☆)の一般解を求めると $ x_1=-x_2-x_3$ より

$\displaystyle \vec{x}= \begin{bmatrix}x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{bmatrix} = \begin{...
...ix} + c_2 \begin{bmatrix}-1 \\ 0 \\ 1 \end{bmatrix} = c_1\vec{p}_1+c_2\vec{p}_2$    

となる.平面(☆)は

$\displaystyle H= \left\langle \vec{p}_1,\,\, \vec{p}_2\right\rangle$    

と表せる. $ H$ の基底 $ \{\vec{p}_1,\vec{p}_2\}$ を グラム・シュミットの直交化法で正規直交基底化する.

$\displaystyle \vec{q}_1= \frac{\vec{p}_1}{\Vert\vec{p}_1\Vert}= \frac{1}{\sqrt{...
...\vec{p}'_2\Vert}= \frac{-1}{\sqrt{6}} \begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ -2 \end{bmatrix}$    

とおくと $ \left({\vec{q}_i}\,,\,{\vec{q}_j}\right)=\delta_{ij}$ となる.

$\displaystyle \{\vec{q}_1,\vec{q}_2\}= \left\{ \frac{1}{\sqrt{2}} \begin{bmatri...
...ix},\,\, \frac{-1}{\sqrt{6}} \begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ -2 \end{bmatrix} \right\}$    

$ H$ の正規直交基底となる. ここで点 $ (x_1,x_2,x_3)$ の位置ベクトルを $ \vec{x}$ とし, 平面へ射影した点の位置ベクトルを $ \vec{y}$ とおく. 射影点 $ \vec{y}$ は平面 $ H$ 上にあるので, 基底 $ \{\vec{q}_1,\vec{q}_2\}$ を用いて,

$\displaystyle \vec{y}=c_1\vec{q}_1+c_2\vec{q}_2$    

と表せる. このとき $ \vec{x}-\vec{y}\perp\vec{q}_1$, $ \vec{x}-\vec{y}\perp\vec{q}_2$ であり, $ \left({\vec{x}-\vec{y}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)=0$, $ \left({\vec{x}-\vec{y}}\,,\,{\vec{q}_2}\right)=0$ が成り立つ. これより

$\displaystyle \left({\vec{x}-\vec{y}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)$ $\displaystyle = \left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)-\left({\vec{y}}\,,\,{\ve...
...,\,{\vec{q}_1}\right)- \left({c_1\vec{q}_1+c_2\vec{q}_2}\,,\,{\vec{q}_1}\right)$    
  $\displaystyle = \left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)- c_1\left({\vec{q}_1}\,,...
...\vec{q}_2}\,,\,{\vec{q}_1}\right)= \left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)-c_1=0$    

となり,$ \vec{q}_1$ 方向の座標は $ c_1=\left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)$ と得られる. $ \vec{q}_2$ 方向の座標も 同様にして $ c_2=\left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_2}\right)$ と得られる. よって射影点は

$\displaystyle \vec{y}= \left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_1}\right)\vec{q}_1+ \left({\vec{x}}\,,\,{\vec{q}_2}\right)\vec{q}_2$    

となる. 射影変換 $ f$ $ \vec{x}\mapsto\vec{y}$ と得られた.

$ f$ を行列表示する. $ \mathbb{R}^3$ の任意の点 $ \vec{x}$ を標準基底 $ \{\vec{e}_1,\vec{e}_2,\vec{e}_3\}$ で表すと,

$\displaystyle \vec{x}= x_1\vec{e}_1+ x_2\vec{e}_2+ x_3\vec{e}_3$    

であり,これを $ f$ で写すと

$\displaystyle \vec{y}$ $\displaystyle =f(\vec{x})= f(x_1\vec{e}_1+ x_2\vec{e}_2+ x_3\vec{e}_3)= x_1f(\vec{e}_1)+ x_2f(\vec{e}_2)+ x_3f(\vec{e}_3)$    
  $\displaystyle = \begin{bmatrix}f(\vec{e}_1) & f(\vec{e}_2) & f(\vec{e}_3) \end{...
...\begin{bmatrix}f(\vec{e}_1) & f(\vec{e}_2) & f(\vec{e}_3) \end{bmatrix} \vec{x}$    

となる. ここで,

$\displaystyle f(\vec{e}_1)$ $\displaystyle = \left({\vec{e}_1}\,,\,{\vec{q}_1}\right)\vec{q}_1+ \left({\vec{...
...ix}, \quad f(\vec{e}_3)= \frac{1}{3} \begin{bmatrix}-1 \\ -1 \\ 2 \end{bmatrix}$    

より,

$\displaystyle \vec{y}= \begin{bmatrix}f(\vec{e}_1) & f(\vec{e}_2) & f(\vec{e}_3...
...atrix}2 & -1 & -1 \\ -1 & 2 & -1 \\ -1 & -1 & 2 \end{bmatrix} \vec{x} =A\vec{x}$    

と行列表示を得る. $ f$ の標準基底における表現行列は

$\displaystyle A= \frac{1}{3} \begin{bmatrix}2 & -1 & -1 \\ -1 & 2 & -1 \\ -1 & -1 & 2 \end{bmatrix}$    

となる.
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{heimen-shaei.eps}

4.105 (射影変換の像と階数)   $ \mathrm{Im}\,(f)=H$, $ \mathrm{rank}\,(f)=\dim(\mathrm{Im}\,(f))=2$ となることを示せ.

4.106 (射影変換の格と退化次数)   平面(☆)の法線ベクトルは $ \vec{n}={\begin{bmatrix}1&1&1\end{bmatrix}}^{T}$ である. $ N=\left\langle \vec{n}\right\rangle $ とおく. $ \mathrm{Ker}\,(f)=N$, $ \mathrm{null}(f)=\dim(\mathrm{Ker}\,(f))=1$ となることを示せ.

注意 4.107 (射影変換の正則性)   $ \det(A)=0$ であり $ A^{-1}$ は存在しない. よって射影変換 $ f$ は正則変換ではない. 例えば $ \vec{x}=c\vec{n}$( $ \forall c\in\mathbb{R}$) に対して $ f:\vec{x}\mapsto\vec{y}=\vec{0}$ となる. 直線上のすべての点が原点 $ \vec{0}$ に写されるので, 逆元 $ f^{-1}(\vec{0})$ は存在しない.

4.108 (射影変換の表現行列とべき等行列)   $ A^2=A$ が成り立つことを示せ.

注意 4.109 (射影変換の表現行列とべき等行列)   $ \vec{x}\in\mathbb{R}^3$ に対して射影変換 $ f$ を作用させると, $ f:\vec{x}\mapsto\vec{y}=A\vec{x}$ となる. $ \vec{y}$ は平面 $ H$ 上にあり $ \vec{y}\in H$ である. $ \vec{y}$ に対してさらに $ f$ を作用させると $ f:\vec{y}\mapsto\vec{z}=A\vec{y}=A(A\vec{x})=A^2\vec{x}$ となる. $ \vec{y}$ は既に平面 $ H$ 上にあるので $ f$ により動かない. よって $ \vec{z}=\vec{y}$ であるから, $ A^2\vec{x}=A\vec{x}$ となる. 任意の $ \vec{x}$ に対して成り立つので,$ A^2=A$ を得る. $ A^2=A$ をみたす行列をべき等行列という. 一般にべき等行列を表現行列にもつ線形変換は射影変換となる.

注意 4.110 (射影変換における直交補空間)   $ \dim(H)=2$, $ \dim(N)=1$ であることと, $ \vec{n},\vec{q}_1,\vec{q}_2$ が 1 次独立であり $ H\cap N=\{\vec{0}\}$ となることから,

$\displaystyle \mathbb{R}^3=H\oplus N$    

を得る. さらに, $ \vec{n}\perp\vec{q}_1$, $ \vec{n}\perp\vec{q}_2$ であるから, $ H$$ N$ は互いに $ \mathbb{R}^3$ における直交補空間となる.

$\displaystyle H=N^{\perp}, \qquad N=H^{\perp}$    

である.

注意 4.111 (射影変換の固有値空間)   $ \vec{x}\in H$ のとき, $ \vec{x}$ は既に平面 $ H$ 上にあるので, 射影変換 $ f$ により動くことはない. すなわち,

$\displaystyle f(\vec{x})=A\vec{x}=\vec{x}$    

が成り立つ. これは固有値 $ \lambda=1$ の 固有方程式 $ A\vec{x}=\lambda\vec{x}$ とみなせる. または, 変換 $ f$ により ベクトル $ \vec{x}$ のスカラー $ \lambda=1$ 倍に写されるともみなせる. すべての $ \vec{x}\in H$ に対して成り立つので, $ H$ は固有空間 $ W(1;f)$ と等しい. また, $ \mathbb{R}^3=H\oplus N$ より $ \mathbb{R}^3$$ H$$ N$ に直和分解される. $ H=W(1;f)$ であるから, $ N$ も固有空間 $ W(\lambda';f)$ となる(はずである). $ \vec{x}\in N$ のとき, 平面 $ H$ の原点 $ \vec{0}$ を通る法線上に$ \vec{x}$ があるので, $ \vec{x}$ は 射影変換 $ f$ により原点 $ \vec{0}$ に写される. これは, 変換 $ f$ により ベクトル $ \vec{x}$ のスカラー $ \lambda'=0$ 倍に写されるともみなせる. よって, $ N=W(0;\lambda)$ となる(はずである).

4.112 (射影変換の固有値空間)   $ f$ の固有空間を具体的に求めて, $ H=W(1;f)$, $ N=W(0;f)$ が成り立つことを示せ.


平成20年2月2日