5.1 線形変換で向きが変わらないベクトル

線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2;$ $ \vec{y}=\begin{bmatrix}3 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}\vec{x}$ を 考える. $ \vec{x}={\begin{bmatrix}1 & 0 \end{bmatrix}}^{T}$ のとき

$\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}1 \\ 0 \end{bmatrix} \right) = \be...
...} = \begin{bmatrix}3 \\ 0 \end{bmatrix} = 3 \begin{bmatrix}1 \\ 0 \end{bmatrix}$    

となり,元のベクトルから向きを変えず $ 3$ 倍のベクトルに写させる. $ \vec{x}={\begin{bmatrix}0 & 1 \end{bmatrix}}^{T}$ のときでは

$\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}0 \\ 1 \end{bmatrix} \right) = \be...
...} = \begin{bmatrix}0 \\ 2 \end{bmatrix} = 2 \begin{bmatrix}0 \\ 1 \end{bmatrix}$    

となり,元のベクトルから向きを変えず $ 2$ 倍のベクトルに写させる. その他のベクトルでは写されたベクトルとの向きが変わる. 例えば $ \vec{x}={\begin{bmatrix}1 & 1 \end{bmatrix}}^{T}$ のときでは

$\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}1 \\ 1 \end{bmatrix} \right) = \be...
...n{bmatrix}3 \\ 2 \end{bmatrix} \neq \lambda \begin{bmatrix}1 \\ 1 \end{bmatrix}$    

となり,元のベクトルと向きが変わる.

同様に他の線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2;$ $ \vec{y}=\begin{bmatrix}1 & 2 \\ 2 & -2 \end{bmatrix}\vec{x}$ の 場合を考える. このとき

  $\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}1 \\ 0 \end{bmatrix} \right)= \beg...
...bmatrix}2 \\ -2 \end{bmatrix} \neq \lambda \begin{bmatrix}0 \\ 1 \end{bmatrix},$    
  $\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}1 \\ 1 \end{bmatrix} \right)= \begin{bmatrix}3 \\ 0 \end{bmatrix} \neq \lambda \begin{bmatrix}1 \\ 1 \end{bmatrix},$    
  $\displaystyle \vec{y}=f\left( \begin{bmatrix}2 \\ 1 \end{bmatrix} \right)= \beg...
... \begin{bmatrix}-3 \\ 6 \end{bmatrix} = -3 \begin{bmatrix}1 \\ -2 \end{bmatrix}$    

となる. ベクトル $ {\begin{bmatrix}2 & 1 \end{bmatrix}}^{T}$ は 向きを変えず元のベクトルの $ 2$ 倍のベクトルに写される. ベクトル $ {\begin{bmatrix}1 & -2 \end{bmatrix}}^{T}$ は 向きを変えず元のベクトルの $ -3$ 倍のベクトルに写される. その他のベクトルは元のベクトルに対して向きを変える.

線形変換には向きを変えないベクトルが存在する. そのベクトルは線形変換それぞれに対して固有に定まる. このベクトルのことを固有ベクトルという. また,定数倍の定数のことを固有値という.




平成20年2月2日