5.2 固有値と固有ベクトル

定義 5.1 (固有値問題)   $ K$ ( $ =\mathbb{R},\mathbb{C}$) 上の ベクトル空間 $ V$ における線形変換 $ f:V\to V$ が方程式

$\displaystyle ($$\displaystyle )\qquad f(\vec{x})=\lambda\vec{x}, \qquad \vec{x}\neq0,\quad \lambda\in K$    

をみたすとする. このとき $ \lambda$$ f$固有値(eigenvalue)といい, $ \vec{x}$ を固有値 $ \lambda$ に属する $ f$固有ベクトル(eigenvector)という. また,方程式(☆)を固有方程式(eigen-equation)といい, この方程式の固有値と固有ベクトルを求める問題を 固有値問題(eigen-problem)という.

注意 5.2 (固有値問題)   線形変換 $ f$ は必ず $ f(\vec{0})=\lambda\vec{0}=\vec{0}$ をみたすので, 零ベクトル $ \vec{0}$ は線形変換 $ f$ によって 自分自身のスカラー $ \lambda$ 倍に写される. このとき $ \lambda$ は任意である. よって $ \vec{0}$ は固有ベクトルと定義しない.

5.3 (単振動系の固有振動の問題)   重さ $ m$ の剛体がバネ定数 $ k$ のバネにつながれ 動摩擦係数 $ \mu$ の床におかれている. バネの伸びを $ x=x(t)$ とする. 剛体に外力 $ \lambda x$ があるとき 運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 x}{dt^2}+ \mu\frac{dx}{dt}+ kx= \lambda x$    

と表される.微分演算子を

$\displaystyle f= m\frac{d^2}{dt^2}+ \mu\frac{d}{dt}+k$    

とおくと,

$\displaystyle fx=\lambda x$    

と書ける. これは固有方程式である. この固有値問題を力学では 単振動系の固有振動の問題という.

5.4 (固有値,固有ベクトルの具体例)   線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ を考える. ただし,

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}3 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}$    

とする. このとき $ \vec{x}=\vec{e}_1$, $ \vec{x}=\vec{e}_2$ を代入すると

$\displaystyle f(\vec{e}_1)=A\vec{e}_1= \begin{bmatrix}3 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatr...
...matrix}0 \\ 1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}0 \\ 2 \end{bmatrix} = 2 \vec{e}_2$    

が成り立つ. よって線形変換 $ f$ の固有値は $ 3$$ 2$ である. 固有値 $ 3$ に属する $ f$ の固有ベクトルは $ \vec{e}_1$ であり, 固有値 $ 2$ に属する $ f$ の固有ベクトルは $ \vec{e}_2$ である.

5.5 (固有値,固有ベクトルの具体例)   線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ を考える. ただし,

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}1 & 2 \\ 2 & -2 \end{bmatrix}$    

とする. このとき $ \vec{x}=\vec{p}_1=\begin{bmatrix}2 \\ 1 \end{bmatrix}$ を 代入すると

$\displaystyle f(\vec{u})=A\vec{p}_1= \begin{bmatrix}1 & 2 \\ 2 & -2 \end{bmatri...
...atrix}4 \\ 2 \end{bmatrix} = 2 \begin{bmatrix}2 \\ 1 \end{bmatrix} = 2\vec{p}_1$    

が成り立つ. よって $ 4$ は線形変換 $ f$ の固有値である. $ \vec{p}_1$ は固有値 $ 2$ に属する $ f$ の固有ベクトルである. 次に $ \vec{x}=\vec{p}_2=\begin{bmatrix}1 \\ -2 \end{bmatrix}$ を 代入すると

$\displaystyle f(\vec{u})=A\vec{p}_2= \begin{bmatrix}1 & 2 \\ 2 & -2 \end{bmatri...
...x}-3 \\ 6 \end{bmatrix} = -3 \begin{bmatrix}1 \\ -2 \end{bmatrix} = -3\vec{p}_2$    

が成り立つ. よって $ -3$ は線形変換 $ f$ の固有値である. $ \vec{p}_2$ は固有値 $ -3$ に属する $ f$ の固有ベクトルである.


平成20年2月2日