5.3 固有空間

注意 5.6 (固有ベクトルの定数倍の任意性)   線形変換 $ f$ の固有値を $ \lambda$ とし, 固有値 $ \lambda$ に属する固有ベクトルを $ \vec{u}_0$ とする. つまり $ f(\vec{u}_0)=\lambda\vec{u}_0$ が成り立つ. このとき,$ \vec{u}_0$ の定数 $ c\,(\neq0)$ 倍の ベクトル $ \vec{u}=c\vec{u}_0$ を考える. ベクトル $ \vec{u}$ もまた $ \lambda$ に属する $ f$ の固有ベクトル となる. なぜなら,

$\displaystyle f(\vec{u})=f(c\vec{u}_0)=c\,f(\vec{u}_0)= c\,(\lambda\vec{u}_0)=\lambda\,(c\vec{u}_0)= \lambda\vec{u}$    

が成り立つからである. これより固有ベクトルには定数倍に任意性がある.

定義 5.7 (固有空間)   ベクトル空間 $ V$ における線形変換 $ f:V\to V$ の 固有値を $ \lambda$ とする. このとき

$\displaystyle W(\lambda; f)= \left\{\left.\,{\vec{u}\in V}\,\,\right\vert\,\,{f(\vec{u})=\lambda\vec{u}}\,\right\}$    

$ f$ の固有値 $ \lambda$固有空間(eigenspace)という.

注意 5.8 (固有空間)   固有ベクトルは $ \vec{0}$ を除外しているが, 固有空間では $ \vec{0}$ を含むことに注意する.

定理 5.9 (固有空間は部分空間)   固有空間 $ W(\lambda; f)$$ V$ の部分空間である.


(証明)     (i) $ f(\vec{0})=\lambda\vec{0}=\vec{0}$ より $ \vec{0}\in W(\lambda; f)$ となる. (ii) $ \vec{u},\vec{v}\in W(\lambda;f)$ のとき $ f(\vec{u})=\lambda\vec{u}$, $ f(\vec{v})=\lambda\vec{v}$ が成り立つ. このとき $ \vec{u}$, $ \vec{v}$ に対して

$\displaystyle f(\vec{u}+\vec{v})=f(\vec{u})+f(\vec{v})= \lambda\vec{u}+\lambda\vec{v}= \lambda(\vec{u}+\vec{v})$    

が成り立つので $ \vec{u}+\vec{v}\in W(\lambda;f)$ となる. (iii) $ \vec{u}\in W(\lambda;f)$ のとき $ f(\vec{u})=\lambda\vec{u}$ が成り立つ. このとき $ c\in K$ に対して

$\displaystyle f(c\vec{u})=c f(\vec{u})=c(\lambda\vec{u})= \lambda(c\vec{u})$    

が成り立つので $ c\vec{u}\in W(\lambda;f)$ となる. 以上より(i), (ii), (iii)が成り立つので $ W(\lambda; f)$$ V$ の 部分空間である.


平成20年2月2日