5.4 行列の固有値

線形変換 $ f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ に関する固有値 $ \lambda$ を定める. 固有方程式は $ f(\vec{x})=\lambda\vec{x}$ より

$\displaystyle A\vec{x}=\lambda\vec{x}$    

となる.これを変形して

$\displaystyle (\lambda E-A)\vec{x}=0$    

となる. 同次系であるから自明な解 $ \vec{x}=\vec{0}$ を必ずもつが, 零ベクトルは固有ベクトルとはならない. よって同次方程式は非自明な解をもたなければならない. つまり任意定数を含む解をもてばよいので,

$\displaystyle \mathrm{rank}\,(\lambda E-A)<n$    

であればよい. これと必要十分な条件は

$\displaystyle ($$\displaystyle )\qquad \det(\lambda E-A)=0$    

である. 方程式(☆)により固有値 $ \lambda$ が定まる. (☆)を固有方程式(eigen-equation)または 特性方程式(characteristic equation)という.

定義 5.10 (固有多項式)   正方行列 $ A$ に対して

$\displaystyle g_{A}(t)=\det(tE-A)$    

を行列 $ A$固有多項式(eigen-polynomial)または 特性多項式(characteristic polynomial)という.

定義 5.11 (行列の固有値)   行列 $ A$ に対する固有多項式 $ g_A(t)$ の根を (複素数も含めて)行列 $ A$ の固有値という.

注意 5.12 (行列の固有値の個数)   正方行列 $ A:n\times n$ の固有値の個数は 重複を別のもととして数えると $ n$ 個である.

定理 5.13 (線形変換の固有値と行列の固有値)   $ \lambda$ が線形変換 $ f$ の固有値であることと, $ g_A(\lambda)=0$ が成り立つこととは, 必要十分条件である.

5.14 (行列の固有値の具体例)   行列

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}7 & -6 \\ 3 & -2 \end{bmatrix}$    

の固有多項式は

$\displaystyle g_A(t)$ $\displaystyle =\det(tE-A)= \det\left( \begin{bmatrix}t & 0 \\ 0 & t \end{bmatri...
...3 & -2 \end{bmatrix} \right) = \begin{vmatrix}t-7 & 6 \\ -3 & t+2 \end{vmatrix}$    
  $\displaystyle =t^2-5t+4 =(t-1)(t-4)$    

である. よって $ A$ の固有値は $ g_A(\lambda)=0$ より $ \lambda=1$$ \lambda=4$ である.

線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ の 固有値は $ \lambda=1$$ \lambda=4$ である.

5.15 (行列の固有値の具体例)   行列

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}0 & -1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix}$    

の固有多項式は

$\displaystyle g_A(t)$ $\displaystyle =\det(tE-A)= \det\left( \begin{bmatrix}t & 0 \\ 0 & t \end{bmatri...
...& 0 \end{bmatrix} \right) = \begin{vmatrix}t & 1 \\ -1 & t \end{vmatrix} =t^2+1$    

である. よって $ A$ の固有値は $ g_A(\lambda)=0$ より $ \lambda=i$ $ \lambda=-i$ である.

線形変換 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ の 固有値は存在しない. しかし,線形変換 $ f:\mathbb{C}^2\to\mathbb{C}^2$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=A\vec{x}$ の 固有値は $ \lambda=i$ $ \lambda=-i$ である.


平成20年2月2日