3.13 ベトクルの 1 次独立の性質 〜 その 1

定理 3.59 (1 次独立の性質)   $ m$ 個の ベトクル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m\in V$ に対して 次の条件が成り立つ.
(i).
$ m$ 個のうち $ r$ $ (r<m)$ 個のベクトル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_r$ が 1 次従属であれば, $ m$ 個のベトクル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$ も 1 次従属となる.
(ii).
$ m$ 個のベトクル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$ が 1 次独立であれば, $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$ のうち 任意の $ r$ $ (1\leq r\leq m)$ 個のベクトルも 1 次独立である.


(証明)     (i) ベクトル $ \vec{a}_1$, $ \cdots$, $ \vec{a}_r$ は 1 次従属であるので, 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{a}_1+ \cdots+ c_r\vec{a}_r= \vec{0}$    

をみたす非自明な係数 $ c_1,\cdots,c_r$ が存在する. このとき,

$\displaystyle c_1\vec{a}_1+ \cdots+ c_r\vec{a}_r+ 0\vec{a}_{r+1}+ \cdots+ 0\vec{a}_{m} = \vec{0}$    

となるので, $ \vec{a}_1$, $ \cdots$, $ \vec{a}_m$ は 1 次従属である. (ii)は(i)の対偶である.

定理 3.60 (1 次独立の性質)   $ m$ 個のベクトル $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ が 1 次従属であることと, $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ のうち 少なくとも 1 個のベクトルが 他の $ m-1$ 個のベクトルの 1 次結合で表されることとは, 必用十分条件である.


(証明)     (必用条件) ベクトル $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ が 1 次従属であれば, 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{u}_1+\cdots+c_m\vec{u}_m=\vec{0}$    

をみたす係数で非自明なもの $ c_1=\cdots=c_m=0$ 以外にも存在する. 例えば $ c_1\neq0$ とすると

$\displaystyle \vec{u}_1= \left(-\frac{c_2}{c_1}\right)\vec{u}_2+ \cdots+ \left(-\frac{c_m}{c_1}\right)\vec{u}_m$    

となる.$ \vec{u}_1$$ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ の 1 次結合で表される. (十分条件) $ \vec{u}_1$ が他のベクトル $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ の 1 次結合で表されるとすると

$\displaystyle \vec{u}_1= c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m$    

となる.これより

$\displaystyle (-1)\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m$ $\displaystyle =\vec{0}$    
$\displaystyle c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m$ $\displaystyle =\vec{0}$    

を得る. $ c_1\neq0$ であるから, 非自明な係数 $ c_1,\cdots,c_m\in\mathbb{R}$ が存在する. よって $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ は 1 次従属である.

定理 3.61 (1 次独立の性質)   ベトクル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_n\in V$ が 1 次独立のとき, あるベクトル $ \vec{v}\in V$

$\displaystyle \vec{v}= c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_n\vec{u}_n$    

と表されるとする. このとき $ c_1,c_2,\cdots,c_m$ は一意に定まる.


(証明)     一意に表されないと仮定する. このとき

$\displaystyle \vec{v}$ $\displaystyle = c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_n\vec{u}_n, \qquad \vec{v}= c_1'\vec{u}_1+ c_2'\vec{u}_2+ \cdots+ c_n'\vec{u}_n$    

と書かれる. これらの差をとると

$\displaystyle \vec{0}= \vec{v}-\vec{v}$ $\displaystyle = (c_1-c'_1)\vec{u}_1+ (c_2-c'_2)\vec{u}_2+ \cdots+ (c_n-c_n)\vec{u}_n$    

となる. これは $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_n$ に関する 1 次関係である. $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_n$ は 1 次独立であるから,

$\displaystyle c_1-c'_1=0,\quad c_2-c'_2=0,\quad \cdots,\quad c_n-c'_n=0$    

であり,

$\displaystyle c_1=c'_1,\quad c_2=c'_2,\quad \cdots,\quad c_n=c'_n$    

が成り立つ. 係数 $ c_j$ は一意に定まる.

定理 3.62 (1 次独立の性質)   ベクトル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m\in V$ が 1 次独立であり, $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$, $ \vec{v}\in V$ が 1 次従属とする. このとき

$\displaystyle \vec{v}= c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m$    

と一意に表される.


(証明)     ベクトル $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$, $ \vec{v}$ は 1 次従属であるから, 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m+ c\vec{v}= \vec{0}$    

の係数 $ c_1,\cdots,c_m,c$ は非自明なものとなる. このとき $ c\neq 0$ となる. なぜなら $ c=0$ とすると 係数 $ c_1,\cdots,c_m$ のうち $ c_j\neq0$ となる係数が 存在することになり, 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{u}_1+ c_2\vec{u}_2+ \cdots+ c_m\vec{u}_m= \vec{0}$    

は非自明な係数が存在することになる. これはベクトル $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ が 1 次独立であることと矛盾する. よって $ c\neq 0$ となる. このときベクトル $ \vec{v}$

$\displaystyle \vec{v}= \left(-\frac{c_1}{c}\right)\vec{u}_1+ \left(-\frac{c_2}{c}\right)\vec{u}_2+ \cdots+ \left(-\frac{c_n}{c}\right)\vec{u}_n$    

と一意に表される.


平成20年2月2日