3.26 次元

定理 3.103 (ベクトル空間の基底の個数)   ベクトル空間の基底の個数は取り方に依らず一意に定まる. その個数は, ベクトル空間に含まれる 1 次独立なベクトルの最大個数と等しい.


(証明)     ベトクル $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_m\in V$ $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n\in V$ が 共に $ V$ の基底とする. このとき, $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_m$ の 1 次結合で書ける. $ n>m$ と仮定すると $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ は 1 次従属であり, $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ が 1 次独立であることと矛盾する. よって $ n\leq m$ である. 同様に $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_m$ $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ の 1 次結合で書ける. $ m>n$ と仮定すると $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_m$ は 1 次従属であり, $ \vec{u}_1,\cdots,\vec{u}_m$ が 1 次独立であることと矛盾する. よって $ m\leq n$ である.以上より $ n=m$ となり, 基底の個数は一定である.

定義 3.104 (次元)   $ K$ 上のベクトル空間 $ V$の基底の個数が $ n$ 個であるとき, これをベクトル空間 $ V$次元(dimension)と呼び,

$\displaystyle \dim_{K}(V)=n$    

と表記する. または省略して単に

$\displaystyle \dim(V)=n$    

と表記する.

注意 3.105 (零ベクトル空間)   零ベクトル $ \vec{0}$ のみからなるベクトル空間 $ V=\{\vec{0}\}$零ベクトル空間といい, 次元は $ \dim(V)=0$ とする.

定義 3.106 (有限次元のベクトル空間)   ベクトル空間 $ V$ の次元 $ \dim(V)$ が有限であるとき, $ V$有限次元のベクトル空間という.

定理 3.107 (ベクトル空間の次元)   ベクトル空間 $ V$ の次元 $ \dim(V)$$ V$ の 1 次独立なベクトルの最大個数と等しい.


(証明)     (必用条件) $ \dim(V)=n$ とすると, 基底の個数は $ n$ である. このとき任意の $ n+1$ 個以上のベクトルは 1 次従属となるから, $ V$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ n$ である. (十分条件) $ V$ の 1 次独立なベクトルの最大個数を $ n$ とする. $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_n$ が 1 次独立とすると, $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_n$, $ \vec{u}$ は 1 次従属となる. このとき $ \vec{u}$$ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_n$ の 1 次結合で表される. これは $ \vec{u}$$ V$ の任意のベクトルに対して成り立つので, $ \{\vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_n\}$$ V$ の基底となる. よって $ \dim(V)=n$ を得る.

3.108 (ベクトル空間の次元の具体例)   $ \mathbb{R}^n$

$\displaystyle \mathbb{R}^n= \left\langle \vec{e}_{1},\,\, \vec{e}_{2},\,\, \cdots,\,\, \vec{e}_{n}\right\rangle$    

と表される. 標準基底 $ \{\vec{e}_1,\vec{e}_2,\cdots,\vec{e}_n\}$ の 個数は $ n$ である. よって次元は

$\displaystyle \dim(\mathbb{R}^n)=n$    

となる.

3.109 (ベクトル空間の次元の具体例)   $ \mathbb{R}[x]_n$ の次元を考える. $ \mathbb{R}[x]_n$ のベクトル $ 1$, $ x$, $ x^2$, $ \cdots$, $ x^n$ の 1 次関係

$\displaystyle 0=c_0+c_1x+c_2x^2+\cdots+c_nx^n$    

の係数は自明なもの $ c_0=c_1=c_2=\cdots=c_n=0$ に限るので, $ 1,x,x^2,\cdots,x^n$ は 1 次独立である. また,このベクトルの 1 次結合全体の集合は

$\displaystyle \left\{\left.\,{f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n}\,\,\right\ver...
...ft\langle 1,\,\, x,\,\, x^2,\,\, \cdots,\,\, x^n \right\rangle =\mathbb{R}[x]_n$    

をみたす.よって $ \{1,x,x^2,\cdots,x^n\}$ $ \mathbb{R}[x]_n$ の基底となるから,

$\displaystyle \dim(\mathbb{R}[x]_n)=n+1$    

となる.

3.110 (ベクトル空間の次元の具体例)   無限回微分可能な関数全体の集合 $ C^{\infty}$ $ \mathbb{R}$ 上のベクトル空間である. $ C^{\infty}$ は解析関数

$\displaystyle f(x)=f(0)+f'(0)x+ \frac{1}{2}f''(0)x^2+ \cdots+ \frac{1}{n!}f^{(n)}(0)x^n+ \cdots$    

全体の集合であるから, 基底として $ \{1$, $ x$, $ x^2$, $ x^3$, $ \cdots$, $ x^n$, $ \cdots\}$ をもつ. 無限個の基底をもつので, $ C^{\infty}$無限次元のベクトル空間である.

3.111 (線形微分方程式の解集合)   $ C^{\infty}$ の部分空間

$\displaystyle W= \left\{ f(x)\in C^{\infty}\,\,\left\vert\,\, a_{n}\frac{d^nf}{...
...1}\frac{d^{n-1}f}{dx^{n-1}}+ \cdots+ a_{1}\frac{df}{dx}+ a_0f=0 \right.\right\}$    

$ \dim(W)=n$ をみたす. これを示せ.


平成20年2月2日