5.10 ケイリー・ハミルトンの定理

定義 5.27 (行列の多項式)   $f(t)$ を多項式

$$f(t)=a_m\,t^m+a_{m-1}\,t^{m-1}+\cdots+a_1\,t+a_0$$

とする． このとき正方行列 $A$ に対して $f(A)$ を

$$f(A)=a_m\,A^m+a_{m-1}\,A^{m-1}+\cdots+a_1\,A+a_0\,E$$

と定義する．

定理 5.28 (ケイリー・ハミルトンの定理)   正方行列 $A$ の固有多項式を $g_A(t)$ とする． このとき

$$g_A(A)=O$$

が成り立つ． これをケイリー・ハミルトン（Caley-Hamilton）の定理 という．

例 5.29 (ケイリー・ハミルトンの定理の使用例)   正方行列

$$A= \begin{bmatrix}1 & 2 \\ -3 & -4 \end{bmatrix}$$

の固有多項式は

$$g_A(t)=\det(tE-A)= \begin{vmatrix}t-1 & -2 \\ 3 & t+4 \end{vmatrix} = t^2+3t+2$$

である． このとき ケイリー・ハミルトンの定理より

$$( )\qquad g_A(A)=A^2+3A+2E=O$$

が成り立つ． これを用いて $A^{-1}$, $A^2$, $A^3$, $A^4$ を求める． (☆)の両辺に $A^{-1}$ を左から掛けると

$$A+3E+2A^{-1}=O$$

となる． これを変形して

$$A^{-1}= -\frac{1}{2}A-\frac{3}{2}E = \begin{bmatrix}-2 & -1 \\ \frac{3}{2} & \frac{1}{2} \end{bmatrix}$$

を得る． 次に(☆)を変形して

$$( )\qquad A^2=-3A-2E= \begin{bmatrix}-5 & -6 \\ 9 & 10 \end{bmatrix}$$

を得る． さらに(♭)を用いて

$$A^3=AA^2=A(-3A-2E)=-3A^2-2A=-3(-3A-2E)-2A=7A+6E= \begin{bmatrix}13 & 14 \\ -21 & -22 \end{bmatrix},$$

$$A^4=AA^3=A(7A+6E)=7A^2+6A=7(-3A-2E)+6A=-15A-14E= \begin{bmatrix}-29 & -30 \\ 45 & 46 \end{bmatrix}$$

を得る．

問 5.30 (ケイリー・ハミルトンの定理の使用例)   この例題において $A^n$ を求めよ．

（答え）     まず

$$A^n=\alpha_n\,A+\beta_n\,E$$

とおく．このとき

$$A^{n+1} =AA^{n}=A(\alpha_n A+\beta_n E)= \alpha_n\,A^2+\beta_n\,A= \alpha_n\,(-3A-2E)+\beta_n\,A$$

$$= (-3\alpha_n+\beta_n)A-2\alpha_n\,E = \alpha_{n+1}\,A+\beta_{n+1}\,E$$

となる．よって漸化式

$$\alpha_{2}=-3, \qquad \beta_{2}=-2, \qquad \alpha_{n+1}=-3\alpha_n+\beta_n, \qquad \beta_{n+1}=-2\alpha_n \qquad n=2,3,4,\cdots$$

を得る． これは漸化式

$$\alpha_{2}=-3, \qquad \alpha_{3}=7, \qquad \alpha_{n+1}+3\alpha_{n}+2\alpha_{n-1}=0, \qquad n=3,4,\cdots$$

とも表される．この一般項は

$$\alpha_{n}=(-1)^n-(-2)^n$$

となる． よって

$$A^{n} =\alpha_{n}A-2\alpha_{n-1}E= \begin{bmatrix}\alpha_{n}-2\alpha_{n-1} & 2\alpha_{n} \\ -3\alpha_{n} & -4\alpha_{n}-2\alpha_{n-1} \end{bmatrix}$$

$$= \begin{bmatrix}-3(-1)^{n-1}+4(-2)^{n-1} & 2(-1)^n-2(-2)^n \\ -3(-1)^n+3(-2)^n & 2(-1)^{n-1}-6(-2)^{n-1} \end{bmatrix}$$

を得る．

平成20年2月2日