5.17 3 次正方行列の対角化

5.49 (対角化の具体例)   行列

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}5 & 6 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 1 & 2 & 2 \end{bmatrix}$    

を対角化する.

まず,行列 $ A$ の固有多項式は

$\displaystyle g_{A}(t)=\det(tE-A)= \begin{vmatrix}t-5 & -6 & 0 \\ 1 & t & 0 \\ -1 & -2 & t-2 \end{vmatrix} =(t-2)^2(t-3)$    

であるから, 固有値は $ g_A(\lambda)=0$ より $ \lambda=2\,\,($2 重$ ),\,\,3$ となる. $ \lambda=2$ のとき,

$\displaystyle 2E-A= \begin{bmatrix}3 & 6 & 0 \\ 1 & 2 & 0 \\ -1 &-2 & 0 \end{bm...
...{簡約化}}\quad \begin{bmatrix}1 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$    

となるので, $ (2E-A)\vec{x}=\vec{0}$ を解いて 固有ベクトルは

$\displaystyle \vec{x}= \begin{bmatrix}-2x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{bmatrix} = \begi...
... \\ 0 \\ 1 \end{bmatrix} =c_1\vec{p}_1+c_2\vec{p}_2 \qquad(c_1\neq0,\,c_2\neq0)$    

と得られる. $ \lambda=3$ のとき,

$\displaystyle 3E-A= \begin{bmatrix}-2 &-6 & 0 \\ 1 & 3 & 0 \\ -1 &-2 & 1 \end{b...
...{簡約化}}\quad \begin{bmatrix}1 & 0 &-3 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$    

となるので, $ (3E-A)\vec{x}=\vec{0}$ を解いて 固有ベクトルは

$\displaystyle \vec{x}= \begin{bmatrix}3x_2 \\ -x_3 \\ x_3 \end{bmatrix} = \begi...
...atrix} = c \begin{bmatrix}3 \\ -1 \\ 1 \end{bmatrix} =c\vec{p}_3 \qquad(c\neq0)$    

と得られる.

行列 $ A$ を対角化する. 重複する固有値は別のものとして考えて, 三つの固有値を $ \lambda_1=2$, $ \lambda_2=2$, $ \lambda_3=3$ とおく. それぞれの固有値に属する固有ベクトルを

$\displaystyle \vec{p}_1= \begin{bmatrix}-2 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix}, \qquad \vec...
...\\ 1 \end{bmatrix}, \qquad \vec{p}_3= \begin{bmatrix}3 \\ -1 \\ 1 \end{bmatrix}$    

と選ぶ. このとき, 同じ固有値 $ \lambda=2$ に属する 固有ベクトル $ \vec{p}_1$, $ \vec{p}_2$ を選ぶときは, 1 次独立となるよう選ぶ. 以上より,

$\displaystyle D=\mathrm{diag}\,(\lambda_1,\lambda_2,\lambda_3)= \begin{bmatrix}...
...d{bmatrix} = \begin{bmatrix}-2 & 0 & 3 \\ 1 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}$    

とおくと,行列 $ A$

$\displaystyle D=P^{-1}AP$    

と対角化される.

注意 5.50 (対角化の任意性)   $ \lambda_1$, $ \lambda_2$, $ \lambda_3$ の 取り方の順には自由度がある. 固有値の取り方にもスカラー倍の自由度がある. よって $ D$, $ P$ は一通りに定まるわけではない.

注意 5.51 (固有空間による直和分解)   線形変換 $ f:\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^3;\vec{y}=A\vec{x}$ の固有空間は

$\displaystyle W(2;f)= \left\{\left.\,{c_1\vec{p}_1+c_2\vec{p}_2}\,\,\right\vert...
...,\right\vert\,\,{c\in\mathbb{R}}\,\right\}= \left\langle \vec{p}_3\right\rangle$    

である. $ \dim(W(2;f))=2$, $ \dim(W(3;f))=1$, $ W(2;f)\cap W(3;f)=\{\vec{0}\}$ となるので,

$\displaystyle W(2;f)\oplus W(3;f)=\mathbb{R}^3, \qquad \dim(W(2;f))+\dim(W(3;f))=\dim(\mathbb{R}^3)$    

が成り立つ. $ \mathbb{R}^3$ は固有空間に直和分解される. $ W(2;f)$ の基底は $ \{\vec{p}_1,\vec{p}_2\}$$ W(3;f)$ の基底は $ \{\vec{p}_3\}$ $ \mathbb{R}^3$ の基底は $ \{\vec{p}_1,\vec{p}_2,\vec{p}_3\}$ となる.

5.52 (固有空間)   固有空間 $ W(2;f)$ は原点を通り法線ベクトル $ \vec{n}=\vec{p}_1\times\vec{p}_2$ の平面であり, 固有空間 $ W(3;f)$ は原点を通り方向ベクトル $ \vec{p}_3$ の直線である. 直線と平面のなす角度の最小値を求めよ.


平成20年2月2日