3.10 ベトクルの 1 次独立と 1 次従属

定義 3.46 (1 次結合,1 次従属)   ベクトル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m\in V$ に対して, ベクトル

$\displaystyle \vec{v}= c_1\vec{u}_1+c_2\vec{u}_2+\cdots+c_1\vec{u}_m \in V, \qquad c_1,c_2,\cdots,c_m\in\mathbb{R}$    

$ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$1 次結合または線形結合(linear combination) という. またこのとき, ベクトル $ \vec{v}$ $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$1 次従属または線形従属(linearly dependent) であるという.

定義 3.47 (1 次関係,1 次独立,1 次従属)   ベクトル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m\in V$ に対して, 条件式

$\displaystyle c_1\vec{u}_1+c_2\vec{u}_2+\cdots+c_1\vec{u}_m=\vec{0}, \qquad c_1,c_2,\cdots,c_m\in\mathbb{R}$    

$ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$1 次関係または 線形関係という.

1 次関係をみたす係数が $ c_1=0,c_2=0,\cdots,c_n=0$ のみであるとき, $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$1 次独立または線形独立(linearly independent) という. $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_m$ が 1 次独立ではないとき, 1 次従属または線形従属という.

注意 3.48 (自明な 1 次関係)   任意のベクトル $ \vec{u}_1,\vec{u}_2,\cdots,\vec{u}_n$ の 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{u}_1+c_2\vec{u}_2+\cdots+c_n\vec{u}_n=\vec{0}$    

において

$\displaystyle c_1=0,\quad c_2=0,\quad \cdots,\quad c_n=0$    

とおくと,明らかに 1 次関係は成立する. これを自明な 1 次関係という. 成立するのが自明な 1 次関係のみのときベクトルは 1 次独立である. また, 自明な 1 次関係ではないとき非自明な 1 次関係という. 非自明な 1 次関係のときベクトルは 1 次従属である. 非自明な場合は例えば

  $\displaystyle c_1=1,\quad c_2=0, \quad \cdots, \quad c_n=0$    
  $\displaystyle c_1=0,\quad c_2=1, \quad \cdots, \quad c_n=0$    
  $\displaystyle c_1=0,\quad c_2=0, \quad \cdots, \quad c_n=1$    
  $\displaystyle c_1=1,\quad c_2=1, \quad \cdots, \quad c_n=1$    

等々がある.

3.49 (ベクトルの 1 次独立,1 次従属の具体例)   ベクトル $ \vec{a},\vec{b}\in\mathbb{R}^2$ を考える. $ \vec{a}$, $ \vec{b}$ が同じ向きのときを考える. 向きが同じなので $ \vec{b}=\alpha\vec{a}$ と書ける.また,

$\displaystyle \alpha\vec{a}-\vec{b}=\vec{0}$    

となので,非自明な 1 次関係である. よって $ \vec{a},\vec{b}$ は 1 次従属である.

3.50 (ベクトルの 1 次独立,1 次従属の具体例)   ベクトル $ \vec{a},\vec{b}\in\mathbb{R}^2$ を考える. $ \vec{a}$, $ \vec{b}$ の向きが異なるときを考える. このとき 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{a}+c_2\vec{b}=\vec{0}$    

は自明なもののみである. もし非自明であれば $ c_1=0$$ c_2=0$ とが同時には 成立しないので, $ c_1\neq0$ とおく. このとき

$\displaystyle \vec{a}=-\frac{c_2}{c_1}\vec{b}$    

と表される. $ \vec{a}$$ \vec{b}$ とは同じ向きとなる. これは与えられた条件と矛盾する. よって 1 次関係は自明なものに限る. $ \vec{a}$, $ \vec{b}$ は 1 次独立である.

3.51 (ベクトルの 1 次独立,1 次従属の具体例)   ベクトル $ \vec{a},\vec{b},\vec{c}\in\mathbb{R}^2$ を考える. $ \vec{c}=\alpha\vec{a}+\beta\vec{b}$ となるときを考える. 条件を書き換えると

$\displaystyle \alpha\vec{a}+\beta\vec{b}-\vec{c}=\vec{0}$    

となる.非自明な 1 次関係であるから, $ \vec{a},\vec{b},\vec{c}$ は 1 次従属である.

3.52 (基本ベクトルの 1 次独立性)   基本ベクトル $ \vec{e}_1,\vec{e}_2,\cdots,\vec{e}_n\in\mathbb{R}^n$ は 1 次独立である. なぜなら, 1 次関係は

$\displaystyle c_1\vec{e}_1+c_2\vec{e}_2+\cdots+c_n\vec{e}_n= \begin{bmatrix}c_1...
...c_n \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{bmatrix} =\vec{0}$    

となるので,係数は自明

$\displaystyle c_1=0,\quad c_2=0,\quad \cdots,\quad c_n=0$    

なものに限るからである.

3.53 (1 次独立の具体例)   $ \mathbb{R}[x]_n$ のベクトル $ 1,x,x^2,\cdots,x^n$ は 1 次独立なベクトルである.


(証明)     1 次関係

$\displaystyle c_01+ c_1x+ c_2x^2+ \cdots+ c_nx^n=0$    

より $ c_0,c_1,c_2,\cdots,c_n$ を定める. $ x=0$ とおくと $ c_0=0$ が定まる. 1 次関係を微分すると

$\displaystyle c_1+ 2c_2x+ \cdots+ nc_nx^{n-1}=0$    

となる.$ x=0$ とおくと $ c_1=0$ が定まる. 同様にして

$\displaystyle c_0=0,\quad c_1=0,\quad c_2=0,\quad \cdots,\quad c_n=0$    

を得る. 自明な係数のみであるから, よって 1 次独立である.

3.54 (1 次独立の具体例)   $ \mathbb{R}^{4}$ のベクトル

$\displaystyle \vec{a}_{1}= \begin{bmatrix}2 \\ 1 \\ -3 \\ 1 \end{bmatrix}\,,\qu...
...d{bmatrix}\,,\quad \vec{a}_{3}= \begin{bmatrix}3 \\ 1 \\ 2 \\ 2 \end{bmatrix}\,$    

は 1 次独立であるか考える. これらの 1 次関係

$\displaystyle c_{1}\vec{a}_{1}+ c_{2}\vec{a}_{2}+ c_{3}\vec{a}_{3}= \vec{0}$    

をみたす $ c_{1}$, $ c_{2}$, $ c_{3}$ を定める. 1 次関係を変形して

$\displaystyle c_{1} \begin{bmatrix}2 \\ 1 \\ -3 \\ 1 \end{bmatrix}+ c_{2} \begi...
... 0 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix}+ c_{3} \begin{bmatrix}3 \\ 1 \\ 2 \\ 2 \end{bmatrix}$ $\displaystyle =\vec{0}$    

であり,

$\displaystyle \begin{bmatrix}2 & 1 & 3 \\ 1 & 0 & 1 \\ -3 & 1 & 2 \\ 1 & 0 & 2 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}c_{1} \\ c_{2} \\ c_{3} \end{bmatrix}$ $\displaystyle = \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix}$    

となり,

$\displaystyle A\vec{c}$ $\displaystyle =\vec{0}$    

と表される. 行列 $ A$ を簡約化すると

$\displaystyle A\to \begin{bmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$    

である.よって

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \...
...\\ c_{2} \\ c_{3} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix}$    

を得る. 係数は自明なもの

$\displaystyle c_1=0,\quad c_2=0,\quad c_3=0$    

に限るので, $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\vec{a}_3$ は 1 次独立である.

3.55 (1 次従属の具体例)   $ \mathbb{R}^4$ のベクトル

$\displaystyle \vec{a}_1= \begin{bmatrix}2 \\ 1 \\ 1 \\ 4 \end{bmatrix}, \quad \...
... \end{bmatrix}, \quad \vec{a}_3= \begin{bmatrix}5 \\ 4 \\ 1 \\ -5 \end{bmatrix}$    

は 1 次独立であるか考える. 1 次関係より,

$\displaystyle c_{1}\vec{a}_{1}+c_{2}\vec{a}_{2}+c_{3}\vec{a}_{3}$ $\displaystyle =\vec{0}$    
$\displaystyle c_1 \begin{bmatrix}2 \\ 1 \\ 1 \\ 4 \end{bmatrix}+ c_2 \begin{bma...
...\ 2 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix}+ c_3 \begin{bmatrix}5 \\ 4 \\ 1 \\ -5 \end{bmatrix}$ $\displaystyle =\vec{0}$    
$\displaystyle \begin{bmatrix}2 & 3 & 5 \\ 1 & 2 & 4 \\ 1 & 1 & 1 \\ 4 & 1 & -5 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{bmatrix}$ $\displaystyle =\vec{0}$    
$\displaystyle A\vec{c}$ $\displaystyle =\vec{0}$    

となる. 簡約化すると

$\displaystyle \begin{bmatrix}1 & 0 & -2 \\ 0 & 1 & 3 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 ...
...c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix}$    

であるから,

$\displaystyle \vec{c}= \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix}2c \\ -3c \\ c \end{bmatrix}, \qquad \forall c\in\mathbb{R}$    

を得る. 1 次関係は

$\displaystyle (2c)\vec{a}_1+(-3c)\vec{a}_2+(c)\vec{a}_3$ $\displaystyle =\vec{0}$    
$\displaystyle 2\vec{a}_1-3\vec{a}_2+\vec{a}_3$ $\displaystyle =\vec{0}$    

となる.非自明な 1 次関係であるから, $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\vec{a}_3$ は 1 次従属である. また, $ \vec{a}_3=-2\vec{a}_1+3\vec{a}_2$ のように, $ \vec{a}_3$$ \vec{a}_1$, $ \vec{a}_2$ の 1 次結合で 表される.

注意 3.56 (1 次従属)   一般にベクトルの組が 1 次従属のとき, あるひとつのベクトルは他のベクトルの 1 次結合で表される.


平成20年2月2日