3.18 1 次独立なベクトルの最大個数と 1 次結合

定理 3.85 (ベクトルの 1 次独立な最大個数)   ベトクルの集合 $ \{\vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数が $ r$ であることの必用十分条件は, $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ のなかに $ r$ 個の 1 次独立な ベクトルがあり, 他の $ m-r$ 個のベクトルはこの $ r$ 個のベクトルの 1 次結合で 表されることである.


(証明)     (必用条件) $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ のうち 1 次独立な $ r$ 個のベクトルを $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r$ とする. このとき $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r$, $ \vec{u}_t$ ( $ t=r+1,r+2,\cdots,m$) は 1 次従属であるから, $ \vec{u}_t$$ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r$ の 1 次結合で表される. (十分条件) $ r$ 個のベクトル $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r$ が 1 次独立であるとする. $ \{\vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ r$ 以上となる. また, 他の $ m-r$ 個のベクトル $ \vec{u}_{r+1}$, $ \cdots$, $ \vec{u}_{m}$$ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r$ の 1 次結合で表されるとする. このとき,

$\displaystyle \left(\vec{u}_1,\,\, \cdots,\,\, \vec{u}_m\right)= \left(\vec{u}_...
... \ddots & \vdots \\ 0 & \cdots & 1 & a_{r,r+1} & \cdots & a_{r,m} \end{bmatrix}$    

と表されるから, $ \{\vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ \{\vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_r\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数 $ r$ 以下となる. よって $ \{\vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ r$ である.

3.86 (ベクトルの 1 次独立な最大個数の具体例)   ベクトル

$\displaystyle \vec{a}_1= \begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ 3 \\ 0 \end{bmatrix}, \quad \...
...\vec{a}_5= \begin{bmatrix}1 \\ -4 \\ 7 \\ 0 \end{bmatrix} \quad \in\mathbb{R}^4$    

の 1 次独立なベクトルの最大個数と そのときベクトルの組の一つを求める. また,その他のベクトルを 1 次独立なベクトルの 1 次結合で表す.

まず, ベクトル $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\cdots,\vec{a}_5$ の 1 次関係

$\displaystyle c_1\vec{a}_1+ c_2\vec{a}_2+ c_3\vec{a}_3+ c_4\vec{a}_4+ c_5\vec{a}_5 =\vec{0}$    

を考える.これは

$\displaystyle \begin{bmatrix}\vec{a}_1 & \vec{a}_2 & \vec{a}_3 & \vec{a}_4 & \v...
... \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ c_4 \\ c_5 \end{bmatrix} =A\vec{c}=\vec{0}$    

と表される. 方程式 $ A\vec{x}=\vec{0}$ の解を求めることで, 1 次関係の係数 $ \vec{c}$ が定まる. 行列 $ A$ を簡約化すると

$\displaystyle A\to B= \begin{bmatrix}1 & 0 & -1 & 0 & 2 \\ 0 & 1 & 2 & 0 & -1 \...
...bmatrix}\vec{b}_1 & \vec{b}_2 & \vec{b}_3 & \vec{b}_4 & \vec{b}_5 \end{bmatrix}$    

となる. 方程式 $ B\vec{x}=\vec{0}$ の解と 方程式 $ A\vec{x}=\vec{0}$ の解とは等しく $ \vec{c}$ であるから, ベクトル $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\cdots,\vec{b}_5$ の 1 次関係と ベクトル $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\cdots,\vec{a}_5$ の 1 次関係は等しい.

まず, $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\cdots,\vec{b}_5$ の 1 次独立なベクトルの最大個数を考える. $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4$ に着目すると,

$\displaystyle \vec{b}_1= \begin{bmatrix}1 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix}=\vec{e}_...
...e}_2, \qquad \vec{b}_4= \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix}=\vec{e}_3$    

であり, $ \mathbb{R}^4$ の基本ベクトルである. 明らかに ベクトルの組 $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4\}$ は 1 次独立であるので, 1 次独立なベクトルの最大個数は $ 3$ 以上である. 他のベクトル $ \vec{b}_3,\vec{b}_5$ について見ると

  $\displaystyle ($$\displaystyle )\quad \vec{b}_3= \begin{bmatrix}-1 \\ 2 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} ...
...\end{bmatrix} = 2\vec{e}_1-\vec{e}_2+\vec{e}_3 = 2\vec{b}_1-\vec{b}_2+\vec{b}_4$    

が成り立つ. $ \vec{b}_3,\vec{b}_5$ はそれぞれ $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4$ に 関して 1 次従属である.

$ 4$ 個以上のベクトルの組が 1 次従属となることを示す. (その 1) まず,$ 5$ 個の ベクトルの組 $ \{\vec{b}_1$, $ \vec{b}_2$, $ \vec{b}_3$, $ \vec{b}_4$, $ \vec{b}_5\}$ に関する 1 次関係は(○)を用いると

$\displaystyle \vec{0}$ $\displaystyle = c_1\vec{b}_1+c_2\vec{b}_2+c_3\vec{b}_3+ c_4\vec{b}_4+c_5\vec{b}...
...2+ c_3(-\vec{b}_1+2\vec{b}_2)+c_4\vec{b}_4+ c_5(2\vec{b}_1-\vec{b}_2+\vec{b}_4)$    
  $\displaystyle = (c_1-c_3+2c_5)\vec{b}_1+(c_2+2c_3-c_5)\vec{b}_2+ (c_4+c_5)\vec{...
...d{bmatrix} \begin{bmatrix}c_1-c_3+2c_5 \\ c_2+2c_3-c_5 \\ c_4+c_5 \end{bmatrix}$    
  $\displaystyle = \begin{bmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0...
...bmatrix} \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ c_4 \\ c_5 \end{bmatrix} =B\vec{c}$    

となる. この方程式の係数行列は $ B$ そのものであるから, 階数は $ 3$ であり非自明な係数をもつ. よって $ \{\vec{b}_1$, $ \vec{b}_2$, $ \vec{b}_3$, $ \vec{b}_4$, $ \vec{b}_5\}$ は 1 次従属となる. 次に $ 4$ 個のベクトルの組が 1 次従属となることを示す. $ \{\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4\}$ の 1 次関係は同様の操作で,

$\displaystyle c_2\vec{b}_2\!+\!c_3\vec{b}_3\!+\!c_4\vec{b}_4\!+\!c_5\vec{b}_5\!...
...! 0 \end{bmatrix}\! \begin{bmatrix}c_2 \\ c_3 \\ c_4 \\ c_5 \end{bmatrix} \!=\!$ $\displaystyle \vec{0},$    
$\displaystyle c_1\vec{b}_1\!+\!c_3\vec{b}_3\!+\!c_4\vec{b}_4\!+\!c_5\vec{b}_5\!...
...! 0 \end{bmatrix}\! \begin{bmatrix}c_1 \\ c_3 \\ c_4 \\ c_5 \end{bmatrix} \!=\!$ $\displaystyle \vec{0},$    
$\displaystyle c_1\vec{b}_1\!+\!c_2\vec{b}_2\!+\!c_4\vec{b}_4\!+\!c_5\vec{b}_5\!...
...! 0 \end{bmatrix}\! \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_4 \\ c_5 \end{bmatrix} \!=\!$ $\displaystyle \vec{0},$    
$\displaystyle c_1\vec{b}_1\!+\!c_2\vec{b}_2\!+\!c_3\vec{b}_3\!+\!c_5\vec{b}_5\!...
...! 0 \end{bmatrix}\! \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ c_5 \end{bmatrix} \!=\!$ $\displaystyle \vec{0},$    
$\displaystyle c_1\vec{b}_1\!+\!c_2\vec{b}_2\!+\!c_3\vec{b}_3\!+\!c_4\vec{b}_4\!...
...! 0 \end{bmatrix}\! \begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ c_4 \end{bmatrix} \!=\!$ $\displaystyle \vec{0}$    

とそれぞれなる. これらの方程式の係数行列はそれぞれ 行列 $ B$ の第 $ 1$, $ 2$, $ 3$, $ 4$, $ 5$ 列目を除いた形をしている. 係数行列の階数はいずれも $ 3$ 以下であるから, 非自明な 1 次関係が存在する. $ 4$ 個のベクトルの組はいずれも 1 次従属となる. (その 2) また別の方法としては次のように示す. 方程式 $ B\vec{c}=\vec{0}$ の解は, 任意定数を $ \alpha$, $ \beta$ とすると

  $\displaystyle ($$\displaystyle )\qquad (\alpha-2\beta)\vec{b}_1+(-2\alpha+\beta)\vec{b}_2+ \alpha\vec{b}_3-\beta\vec{b}_4+\beta\vec{b}_5= \vec{0}$    

と表される. $ 5$ 個のベクトルの組 $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$ の 1 次関係は(☆)である. 非自明な 1 次関係であるから $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$ は 1 次従属となる. また,(○)より

$\displaystyle \vec{0}=-\vec{b}_1+2\vec{b}_2-\vec{b}_3+0\vec{b}_4, \qquad \vec{0}=2\vec{b}_1-\vec{b}_2+\vec{b}_4-\vec{b}_5$    

と非自明な 1 次関係が成り立つので, ベクトルの組 $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$ は 1 次従属となる. さらには(☆)において, $ \alpha=2\beta$, $ \beta=2\alpha$, $ \beta=0$ とおくと, それぞれ

  $\displaystyle -3\vec{b}_2+2\vec{b}_3-\vec{b}_4+\vec{b}_5=\vec{0}, \quad -3\vec{...
...}_4+2\vec{b}_5=\vec{0}, \quad \vec{b}_1-2\vec{b}_2+\vec{b}_3-0\vec{b}_5=\vec{0}$    

と非自明な 1 次関係が成り立つので, $ \{\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_3,\vec{b}_4,\vec{b}_5\}$, $ \{\vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_3,\vec{b}_5\}$ は 1 次従属となる.

以上より,ベクトルの組 $ \{\vec{b}_1,\cdots,\vec{b}_5\}$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ r=3=\mathrm{rank}\,A$ である. これらの結果は ベクトル $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\cdots,\vec{a}_5$ の 1 次関係にも適用される. 1 次独立なベクトルの最大個数は $ r=\mathrm{rank}\,A=3$ であり, その 1 次独立となるベクトルの組のひとつは $ \{\vec{a}_1,\vec{a}_2,\vec{a}_4\}$ である. また,その他のベクトルはこれらの 1 次結合

$\displaystyle \vec{a}_3=-\vec{a}_1+\vec{a}_2, \qquad \vec{a}_5=2\vec{a}_1-\vec{a}_2+\vec{a}_4$    

として表される.


平成20年2月2日