3.22 一般の場合での 1 次独立なベクトルの最大個数

定理 3.90 ( 1 次独立なベクトルと行列)   ベクトル $ \vec{u}_1$, $ \vec{u}_2$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m\in V$ が 1 次独立であり, ベクトル $ \vec{v}_1$, $ \vec{v}_2$, $ \cdots$, $ \vec{v}_n\in V$

$\displaystyle \left(\vec{v}_1,\,\, \vec{v}_2,\,\, \cdots,\,\, \vec{v}_n\right)=...
...,\, \vec{u}_2,\,\, \cdots,\,\, \vec{u}_m\right)A, \qquad A=[a_{ij}]_{m\times n}$    

をみたす.
(i).
$ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ の 1 次関係と $ \vec{a}_1,\cdots,\vec{a}_n$ の 1 次関係は等しい.
(ii).
特に $ m=n$ のとき, $ \vec{v}_1,\cdots,\vec{v}_n$ が 1 次独立であることと, $ A$ が正則であることとは,必用十分条件である.


(証明)     (i) ベクトル $ \vec{v}_1$, $ \cdots$, $ \vec{v}_n$ の 1 次関係は

$\displaystyle \vec{0}$ $\displaystyle = c_1\vec{v}_1+\cdots+c_n\vec{v}_n = \left(\vec{v}_1,\,\, \cdots,...
...v}_n\right)\vec{c} = \left(\vec{u}_1,\,\, \cdots,\,\, \vec{u}_m\right)A \vec{c}$    
  $\displaystyle = \left(\vec{u}_1,\,\, \cdots,\,\, \vec{u}_m\right)\tilde{\vec{c}}$    

となる. $ \vec{u}_1$, $ \cdots$, $ \vec{u}_m$ は 1 次独立であるから, $ \tilde{\vec{c}}=\vec{0}$ となる. $ A\vec{c}=\tilde{\vec{c}}=\vec{0}$ より

$\displaystyle \vec{0}=A\vec{c}= \begin{bmatrix}\vec{a}_1 & \cdots & \vec{a}_n \...
...bmatrix}c_1 \\ \vdots \\ c_n \end{bmatrix} = c_1\vec{a}_1+ \cdots+ c_n\vec{a}_n$    

を得る. これは $ \vec{a}_1$, $ \cdots$, $ \vec{a}_n$ の 1 次関係である. (ii) $ m=n$ のとき $ A$ は正方行列であるから, $ \vec{a}_1$, $ \cdots$, $ \vec{a}_n$ が 1 次独立であることと $ A$ が正則であることは等価である.

3.91 ( 1 次独立なベクトルと行列)   ベクトル空間 $ \mathbb{R}[x]_3$ のベクトル

$\displaystyle f_1(x)$ $\displaystyle =1+x+3x^2,$ $\displaystyle f_2(x)$ $\displaystyle =1+2x-x^3,$ $\displaystyle f_3(x)$ $\displaystyle =1+3x-3x^2-2x^3,$    
$\displaystyle f_4(x)$ $\displaystyle =-2-4x+x^2-x^3,$ $\displaystyle f_5(x)$ $\displaystyle =-1-4x+7x^2$    

が 1 次独立であるか調べる. まず,ベクトル $ 1,x,x^2,x^3\in\mathbb{R}[x]_3$ は明らかに 1 次独立である. このとき $ f_1,\cdots,f_5$ $ 1,x,x^2,x^3$ とは

$\displaystyle ($$\displaystyle ) \qquad \left(f_1,\,\, f_2,\,\, f_3,\,\, f_4,\,\, f_5\right)= \l...
...\ 0 & -1 & -2 & -1 & 0 \end{bmatrix} = \left(1,\,\, x,\,\, x^2,\,\, x^3\right)A$    

の関係にある. 次に $ f_1,\cdots,f_5$ の 1 次関係は

0 $\displaystyle = c_1f_1+ c_2f_2+ c_3f_3+ c_4f_4+ c_5f_5 = \left(f_1,\,\, f_2,\,\...
...c_5 \end{bmatrix} = \left(f_1,\,\, f_2,\,\, f_3,\,\, f_4,\,\, f_5\right)\vec{c}$    

と表される. (☆)を用いると

$\displaystyle 0= \left(f_1,\,\, \cdots,\,\, f_5\right)\vec{c}= \left(1,\,\, x,\...
...\,\, x,\,\, x^2,\,\, x^3\right)\tilde{\vec{c}}, \qquad \tilde{\vec{c}}=A\vec{c}$    

となり, $ 1,x,x^2,x^3$ に関する 1 次関係を得る. $ 1,x,x^2,x^3$ は 1 次独立であるから $ \tilde{\vec{c}}=\vec{0}$ が 成立する. よって $ \vec{c}$ $ A\vec{c}=\vec{0}$ をみたす. $ A=\begin{bmatrix}\vec{a}_1 & \cdots & \vec{a}_5 \end{bmatrix}$ とおくと,

$\displaystyle \vec{0}= c_1\vec{a}_1+ c_2\vec{a}_2+ c_3\vec{a}_3+ c_4\vec{a}_4+ c_5\vec{a}_5$    

となるので, $ f_1,\cdots,f_5$ $ \vec{a}_1,\cdots,\vec{a}_5$ の 1 次関係は等しい. ここで,行列 $ A$ を簡約化して

$\displaystyle A\to B= \begin{bmatrix}1 & 0 & -1 & 0 & 2 \\ 0 & 1 & 2 & 0 & -1 \...
...bmatrix}\vec{b}_1 & \vec{b}_2 & \vec{b}_3 & \vec{b}_4 & \vec{b}_5 \end{bmatrix}$    

とおく. このときある正則行列 $ P$ を用いて $ B=PA$ と表されるから, $ A\vec{c}=\vec{0}$ より $ B\vec{c}=PA\vec{c}=P\vec{0}=\vec{0}$ が成り立つので, $ \vec{a}_1,\cdots,\vec{a}_5$ $ \vec{b}_1,\cdots,\vec{b}_5$ の 1 次関係は等しい. よって, $ f_1,\cdots,f_5$ の 1 次関係は $ \vec{b}_1,\cdots,\vec{b}_5$ の 1 次関係より定まる.

  $\displaystyle \vec{b}_1= \begin{bmatrix}1 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} =\vec{e}...
...ec{b}_3= \begin{bmatrix}-1 \\ 2 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} =-\vec{b}_1+2\vec{b}_2,$    
  $\displaystyle \vec{b}_4= \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix} =\vec{e}...
... \begin{bmatrix}2 \\ -1 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix} =2\vec{b}_1-\vec{b}_2+\vec{b}_4$    

より, $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4$ は 1 次独立である. $ \vec{b}_3$, $ \vec{b}_5$ $ \vec{b}_1,\vec{b}_2,\vec{b}_4$ の 1 次結合で表される. よって $ \vec{b}_1,\cdots,\vec{b}_5$ の 1 次独立なベクトルの 最大個数は $ 3=\mathrm{rank}\,A$ である. 行列 $ A$ の列ベクトルに対しても同じ 1 次関係が成り立つので, $ \vec{a}_1,\vec{a}_2,\vec{a}_4$ は 1 次独立である. 残りのベクトルは $ \vec{a}_3=-\vec{a}_1+2\vec{a}_2$, $ \vec{a}_5=2\vec{a}_1-\vec{a}_2+\vec{a}_4$ と 1 次結合で表される. $ \vec{a}_1,\cdots,\vec{a}_5$ の 1 次独立なベクトルの 最大個数は $ 3=\mathrm{rank}\,A$ である. $ f_1,\cdots,f_5$ にも同じ 1 次関係が成り立つので, $ f_1,f_2,f_4$ は 1 次独立である. 残りのベクトルは $ f_3=-f_1+2f_2$, $ f_5=2f_1-f_2+f_4$ と 1 次結合で表される. よって $ f_1,\cdots,f_5$ の 1 次独立なベクトルの最大個数は $ 3=\mathrm{rank}\,A$ である.


平成20年2月2日