3.44 直交補空間

定義 3.190 (ベクトルと部分空間の直交)   内積空間 $ V$ において, ベクトル $ \vec{a}\in V$ と 部分空間 $ W$ に含まれる すべてのベクトル $ \vec{u}$ とが直交するとき, すなわち

$\displaystyle \left({\vec{a}}\,,\,{\vec{u}}\right)=0, \qquad \forall \vec{u}\in W$    

が成り立つとき, $ \vec{a}$$ W$ とは直交するといい,

$\displaystyle \vec{a}\perp W$    

と表記する.

3.191 (ベクトルと部分空間とが直交する具体例)   $ \mathbb{R}^3$ の部分空間

$\displaystyle W=\left\{\left.\,{\vec{x}\in \mathbb{R}^3}\,\,\right\vert\,\,{x_{1}+x_{2}+x_{3}=0}\,\right\}$    

とベクトル $ \vec{a}={\begin{bmatrix}1 & 1 & 1\end{bmatrix}}^{T}$ と は直交 $ \vec{a}\perp W$ する. なぜなら,方程式 $ \left({\vec{a}}\,,\,{\vec{x}}\right)=0$ の 解空間が $ W$ であるからである. この例では $ W$ は平面であり $ \vec{a}$$ W$ の法線ベクトルである.

また, ベクトル $ \alpha\vec{a}$ ( $ \alpha\in\mathbb{R}$) も $ \left({\alpha\vec{a}}\,,\,{\vec{x}}\right)=\alpha\left({\vec{a}}\,,\,{\vec{x}}\right)=0$ をみたすので, 直線 $ \alpha\vec{a}$ 上のすべてのベクトルに対して, $ \alpha\vec{a}\perp W$ が成り立つ. $ W$ に直交するベクトルは 1 通りではないことに注意する.

定義 3.192 (直交補空間)   内積空間 $ V$ とその部分空間 $ W$ に対して, 部分空間

$\displaystyle W^{\perp}=\left\{\left.\,{\vec{v}\in V}\,\,\right\vert\,\,{\vec{v}\perp W}\,\right\}$    

$ V$ における $ W$直交補空間という.

定理 3.193 (直交補空間は部分空間)   直交補空間 $ W^{\perp}$$ V$ の部分空間である.

3.194 (直交補空間は部分空間)   これを示せ.

定理 3.195 (直交補空間による直和分解)   内積空間 $ V$ における部分空間 $ W$ の直交補空間 $ W^\perp$

$\displaystyle V$ $\displaystyle =W\oplus W^{\perp}$    

をみたす.次元は

$\displaystyle \dim(V)$ $\displaystyle = \dim(W)+ \dim(W^\perp)$    

の関係が成り立つ.

3.196 (直交補空間の具体例)   $ \mathbb{R}^3$ の部分空間

$\displaystyle W=\left\{\left.\,{\vec{x}\in \mathbb{R}^3}\,\,\right\vert\,\,{x_{1}+x_{2}+x_{3}=0}\,\right\}$    

の直交補空間は

$\displaystyle W^{\perp}= \left\{\left.\,{\alpha \begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix}}\,\,\right\vert\,\,{\alpha\in\mathbb{R}}\,\right\}$    

である.このとき,

$\displaystyle W\oplus W^{\perp}=\mathbb{R}^3, \qquad \dim(W)+\dim(W^\perp)=2+1=\dim(\mathbb{R}^3)=3$    

が成り立つ.

3.197 (直交補空間の具体例)   $ \mathbb{R}^3$ における部分空間

$\displaystyle W= \left\{\left.\,{\begin{bmatrix}c_1 \\ c_2 \\ 0 \end{bmatrix}}\,\,\right\vert\,\,{c_1,c_2\in\mathbb{R}}\,\right\}$    

の直交補空間 $ W^\perp$

$\displaystyle W^{\perp}= \left\{\left.\,{\begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ c_3 \end{bmatrix}}\,\,\right\vert\,\,{c_3\in\mathbb{R}}\,\right\}$    

である. なぜなら, 任意のベクトル $ \vec{u}\in W$, $ \vec{v}\in W^\perp$ に対して $ \left({\vec{u}}\,,\,{\vec{v}}\right)=0$ が成り立つからである.


平成20年2月2日